第15話 笹野 梓 ✕ 夏祭りの夜
私は2週間前に尚人から、電話で沙奈ちゃんが夏祭りに行きたいと話していたのを聞いて気合いを入れていた。
尚人の話しによると鳴海さんが私と尚人と沙奈ちゃんの3人で夏祭りに行く事を沙奈ちゃんに勧めてくれたらしい。
まさかカフェで少し話をしたものの、ここまで話しをしてくれるとは思ってもいなかったので感謝である。
そして私は3人分の浴衣を急いで用意して、急遽着付けを母に頼み込んで教えて貰い、無事に今は尚人の運転する車に3人で乗っている。
「今日は天気が良くて良かったね、沙奈ちゃん」
「そうですね」
私は後部座席に沙奈ちゃんと2人で乗り込むと出来るだけ優しい声で話しかけた。
私の勘違いかもしれないが婚約者の妹に嫌われているなんて避けたい自体だからだ。
そんな私の思惑も知らず沙奈ちゃんは前を向いたまま無難な返事を返してきたが、私は職場で今どきの子なんて淡々としていると、数日前にベテランの社員に言われた事を思い出して、こんなものなのかと自分を納得させる。
けれど少しでも沙奈ちゃんと仲良くなりたい気持ちは変わりはない。
「ねぇ、沙奈ちゃんは普段何しているの?」
「特に何もしてないですよ」
「けど趣味くらいあるでしょう?」
「ん〜、そう言われると庭の手入れくらいですかね」
私がしつこく話しかけると沙奈ちゃんは困った様に笑ったが、一呼吸置いて答えてくれた。
もしかしたら尚人の話しだと沙奈ちゃんは友達の話しもしないし、グイグイ話しかけた方が良いのかもしれない。
そう思うとなんだか上手くいきそうな気がする。
「それじゃあ、尚人と沙奈ちゃんが住んでるあの家の庭はもしかして沙奈ちゃんが管理しているの?」
「そうだよ。最近は鳴海さんにも手伝ってもらってるみたいだけど、沙奈が管理している。凄いだろ」
「やめてよ、お兄ちゃん。恥ずかしいでしょう」
兄に褒められて恥ずかしいと言いながらも満更でもないように笑う沙奈ちゃんは、年相応の女の子に見える。
そしてこの兄妹の仲の良さを微笑ましく思うと、私は沙奈ちゃんの弾む気持ちを刺激する様に更に言葉を続ける。
「そんな事ないよ。沙奈ちゃんの家の庭はいつも綺麗な花が咲いてて素敵だよ」
「梓さんまでからかうのはやめて下さいよ。梓さんの趣味は何ですか?」
照れた様に笑う沙奈ちゃんは非常に可愛い。そう思うと沙奈ちゃんに嫌われているのは私の勘違いかもしれないという気持ちが急激に膨らんでくる。
そして私は左側にいる沙奈ちゃんに分かりやすい様に、左手を左耳の後ろに添えると沙奈ちゃんに耳たぶを見せた。
「私、ピアスを集めるのが趣味なの」
私が青い石の付いたピアスを見せると沙奈ちゃんは目を輝かせた。
その姿は宝物を見つけた少女の様にも見える。
「綺麗ですね。これも梓さんが買ったんですか?」
「違うの。これは私の誕生日に尚人が買ってくれたの」
予想外の質問に私は面食らったが、恥ずかしがっても仕方ないと思うと正直に話した。
「そうなんですか。お兄ちゃんが女性にプレゼントを贈るなんて想像がつかないし、本当に仲が良いんですね」
私は沙奈ちゃんの言葉に嬉しくなって声を出さずに笑うと、この子となら上手くやれるかもしれないと思った。
そしてその日は自宅に尚人の車で送ってもらうまで、始終楽しく話した。
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