第14話 鳴海 涼 ✕ 提案
その週の日曜日、私は沙奈の家で麦茶を飲んでいた。そして麦茶の入ったグラスの中で揺れる氷を眺めながら、カフェでの尚人達との会話の事を考えていた。
するとお盆を持った沙奈がキッチンから現れた。
「涼さん、これお茶菓子にどうぞ」
お盆の上には奇麗にカットされた羊羹が載っている皿が2つある。
「ありがとう、沙奈。美味しそうな羊羹だね」
私が皿を受け取りお礼を言うと、沙奈は自分の皿もテーブルに置いてにこにことソファーに座る。
その様子からはやっぱり他人と上手くやれない様子は想像がつかない。
「実はこの羊羹、私が作ったんです。初めて作ったから味は保証出来ません」
「そうなの。凄いね。じゃあ、いただきます」
私は沙奈の言葉に羊羹と沙奈の顔を往復して見ると、
その瞬間、小豆の甘さが口いっぱいに広がった。
私はその甘さに顔をほころばせると、口の中の羊羹を飲み込んで感想を言う。
「美味しいよ。沙奈ってふわふわしているから洋菓子のイメージだったけど、和菓子も作れるって凄いね」
「ありがとうございます。そう言ってもらえると嬉しいです」
「そう言えばこの間、挨拶した沙奈のお兄さんの彼女さんも綺麗な人だったから、沙奈と並んだら姉妹に見えるかもね」
沙奈は私の言葉に気を良くしたのか、自分も爪楊枝に羊羹をさして口に運ぶ。そして私はそれをチャンスとばかりに梓さんの話を始めた。
「そうですか?」
「うん、お揃いの浴衣とか着たら似合うかもね。丁度、夏祭りも近いし一緒に行ったら?」
「えっ、でも…」
私が会社で見た夏祭りのポスターの事を思い出し一気に喋ると、沙奈はまだ羊羹の残っている皿をテーブルに置いた。そして遠慮がちに口を開いた。
「梓さんはお兄ちゃんと2人で夏祭りに行くだろうし、私が一緒に行ったら邪魔なんじゃ…」
「いい人そうだったし、聞いてみたらいいんじゃない?」
私がカフェで尚人さんと梓さんに会った事を話ば、どんな事を話したか聞かれるかもしれないと思い、2人に会った事を話さずに夏祭りの事を話すと沙奈は少し考える様に上を見た。
その様子は中の良い兄とその彼女の邪魔をしてはいけないと
「涼さんが言うなら一応聞いてはみます」
紗奈は私に返事をすると麦茶を一口飲んだ。
そして私は沙奈のその様子に満足そうに頷くと、夏祭りの日は花火くらいは見たいなと呑気に考えていた。
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