第13話 鳴海 涼 ✕ カフェにて

午前中の仕事が終わると私は昼食の前に携帯ショップに行った。

そして店で充電器を貸してもらったが、結局充電は出来ず修理に出す事になった。その為、代替器を借りて店を出る事になった。

 

何だかんだ店員とのやり取りと待ち時間で1時間以上かかり、昼食を食べる時間はだいぶ過ぎてしまった。その為、私は携帯ショップの近くのカフェで軽く昼食を取る事にした。


私はカフェの駐車場に車を止めるとら店内に入ってレジの直ぐ側で店員を待った。

すると店内は平日のお昼を過ぎた時間の為、混んでいる様子はなく、直ぐに店員が禁煙席か喫煙席か確認しに来る。

そして私が禁煙席を希望している事を伝えると、店の入口から左側半分が禁煙席と案内を受けたので、左側の奥の席に行こうと足を進める。


そして私が奥に向かって歩いていると見知った人物と偶然にも目が合ってしまった。相手も驚いた様だったが私に向かって頭を下げてくれた。


「こんな所で会うとは思ってませんでした、鳴海さん」

「そうですね、尚人さん」


それは紗奈の兄の尚人だった。

そして尚人の正面に座っていた女性は、店の入口から向かうと後ろ姿しか分からなかったが笹野梓だった。

梓も尚人にならう様に会釈をすると、私を見上げる様に顔を上げた。

 

「先日はあまりお話し出来なかったけど、宜しくお願いします。あの、良かったら私達と一緒の席はどうですか?」

「そうですね。じゃあ宜しくお願いします」


梓の声は落ち着いた大人の女性の声だった。

私は特に断わる理由もないので、梓さんが席を詰めてくれると梓さんの隣に座った。

そしてメニューを確認するとサンドイッチとオレンジジュースを頼む。


「鳴海さんはよくここに来るんですか?」


私が注文したものがまだ来ず、コップの水を口に持っていくと、尚人さんがいきなり尋ねてきた。

昼食の時間はとっくに過ぎている為、1人でこんな所に来た事に疑問を思われたのかもしれない。


「いえ普段はあまり外食はしないんですが、スマホが壊れちゃって携帯ショップに行ってたらお昼を食べそこねちゃって」

「そうだったの。大変でしたね。ここは私と尚人の時間が合う時によく使うんですよ。その場所で沙奈ちゃんのお友達に会う嬉しいわ」

「いえこちらこそ。私も職場の先輩がいつも有給使わないからって帰してくれたんで凄い偶然ですね」


私が会社での経緯いきさつを軽く説明すると、尚人さんは直ぐに状況が分かったのか頷いた。そしてその横で流暢りゅうちょうに話す梓さんはなんとなく不思議な感じがするが、嫌な感じは全くしない。


「いい先輩なんだね。俺も沙奈の友達に会えて嬉しいよ。沙奈の友達なんて珍しいから」

「珍しい?」

「嫌、変な意味じゃないんだ。あいつ大学の話しとかしないから、沙奈の友達とか全然知らないから」


尚人の言葉に私が首をひねると慌てた様に尚人が説明した。特に尚人の言葉を悪く取った訳ではないが、どうやら尚人は私が変な誤解をしたと思ったらしい。それがなんとなく可笑しくて知らず知らずに笑みが溢れる。


「もう尚人ったら鳴海さんは珍獣じゃないのよ。それなのにこんなに可愛い子に何言ってるの」


梓さんは慌てる尚人さんを肘で小突くと尚人さんを見上げた。


「素敵なお兄さんがいて、素敵なお義姉さんがいて沙奈が羨ましいです」


私が来たばかりのオレンジジュースに口を付けながら話すと、梓は突如顔を曇らせた。


「本当にそう思う?」


梓さんの突然の変化に理由わけがわからず黙っていると、尚人が困った様に顔を曇らせる。

そして言いにくいそう唸ってから、小さな声で話しだした。


「鳴海さんに言っても仕方ないんだけど、梓は自分が沙奈に嫌われてる気がするって言うんだよね。」

「そうなんですか?」

「俺にはそうは見えなかったけど」


尚人の言葉に私はいつもの沙奈の笑顔を思い浮かべるが、どうしても自分の兄の恋人を邪険する様子は想像出来ない。


「うん、そうだといいんだけど何となくそんな気がするのよ」


うつむく梓さんに私までも落ち込んではいけないと思うと、殊更ことさら明るい声を出した。


「きっと尚人さんの言う通りですよ。そうだ、私もそれとなく沙奈に梓さんと仲良くする様に話してみますね」

「ありがとう。鳴海さん」


俯きながらも弱々しくお礼を言ってくる梓に微笑んだが、それから一ヶ月も経たずにあんな事があるとは思わなかった。



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