第12話 鳴海 涼 ✕ 同僚3

その日私は会社の駐車場に着くなり嘆息した。

けれどどんなに落ち込んでいても仕事はしなければならないので、車のエンジンを切ると車から降りて鍵をかけた。

そして会社の事務職に入ると自分のパソコンに電源を入れ、いつもの様に冷蔵庫の麦茶を自分のカップに容れ机に戻った。


私はまだ立ち上がらないパソコンをちらりと見ると、自分のバックからスマホを取り出した。

そして再度、嘆息した。

スマホの画面の充電は何度見ても20 %を切っている。


私が下を向いていると私の机の隣りの席の椅子がガタリと引かれた。


「おはよう、鳴海さん。どうしたの朝から溜め息を吐いたりして?」


どうやら鈴木さんにしっかり私の溜め息を見られていたらしい。

私は鈴木さんが席に着くと、自分のスマホの画面を鈴木さんに見せた。


「おはようございます、鈴木さん。何か朝からスマホがおかしいんですよね」

「おかしいって?」

「昨日の夜、充電してから寝たはずなのに充電がされていないんです。朝、あれ?と思って充電器を差し直してみても全然変わらないんです」


昨夜、寝る前にスマホに充電器を差したはずなのに充電されていないのだ。その為、私は朝から溜め息を吐いていた。

鈴木さんは私の話しを聞くと嫌そうに眉間に皺を寄せた。


「それって最悪じゃないの。そういう時に限って人から連絡が来たりするのよね」

「そうなんですよね。うちは固定電話が有るわけでもないので、ホントに困ります」


私がどうしたらいいか悩んでいると、鈴木さんがほんの少しの沈黙の後、明るい声で話した。


「それなら午後から半休を取って、スマホをみてもらいにお店に行ったらどうかしら?」


鈴木さんの思い掛けない提案に私が顔を上げると、鈴木さんは先程までの嫌そうな顔はどこえやら笑顔で私を見ている。


「鳴海さん、普段休まないから有給が余ってるんじゃないの?だからたまには使ったらいいわよ」

「けど急に休んだら周りに悪いですよ」


私がもごもごと答えると鈴木さんは私のスマホを指差した。


「だけどそれは困るんじゃないのかしら?まだ水曜日だし。それとも急ぎの業務でもあるのかしら?」

「困りはするんですが、それに頼まれている書類のチェックもあるので……」


私が歯切れ悪く答えると、鈴木さんはにこりと笑った。

何故かゾクリと背中が寒くなる笑顔だ……


「それなら私がその書類のチェックをするから、今見せてくれる?」


私は鈴木さんの発言に観念すると、半休を取りにくい理由を大野さんには悪いと思いつつも正直に話した。


「それがその書類はまだないんです。今日、渡すから鈴木さんには黙っていてほしいって大野さんに言われていて…」

「やっぱり大野君だったのね。あの子いつも締め切りギリギリに書類を出すから、私に小言を言われるのが嫌で、鳴海さんにお願いしたのね。まぁ、いいわ。大野君の件は私がなんとかするから、鳴海さんはお昼までで帰りなさい。」

「はい、分かりました」


やっぱり鈴木さんには勝てない。

鈴木さんの好意には感謝しつつも、あとから大野さんが騒ぐ姿を想像しするとそれだけでなんとなく疲れた。

頑張れ大野君。


私はそれでも鈴木さんにあまり負担をかけない様に、その日の午前中はいつも以上に集中して仕事をした。



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