第7話 鳴海 涼 ✕ 同僚2

会社でのお昼休み。

私と鈴木さんは一緒に自分達の机で昼食を取っていた。 

私はコンビのサンドイッチと野菜ジュース。鈴木さんは手作りのお弁当だ。家族三人で暮らす鈴木さんは、夫と夏休み中の子供の分と合わせて、毎日三人分のお弁当を詰めているそうだ。

最初話しを聞いた時、私には真似出来ないと言ったら、鈴木さんは慣れだと言って笑ったが、鈴木さんの栄養バランスの取れたお弁当を見るとやっぱり私には無理だと思う。


「それで最近はどうなの鳴海さん?」

「どうって言いますと?」


私が鈴木さんの質問に、サンドイッチに齧り付くの止めてキョトンとしていると、鈴木さんは口の中のおかずを飲み込んだ。


「ほら例の噂がなくなったじゃない。だから最近は周りとどうかと思ってね」

 

例の噂というのは私が左遷されて来たという噂だ。 

私が鈴木さんから噂の話しを聞いたあと、鈴木さんは噂が誤解だと周りの皆に説明してくれた為、噂が嘘だと分かった人達が私に謝りに来てくれたのだ。

全く鈴木さんの面倒見の良さと信頼度の高さには頭が上がらない。  


「その節は有難うございます。お陰様でなんとなく、仕事がやりやすくなった気はします」

「そうなのね、じゃあ友達でも出来たのかしら?」

「それはどうでしょう」


実際、噂話しがなくなってから職場内で話し掛けてくれる人は増えていた。 

けれど今まで見た目で判断される事が多かった私は、一歩踏み出せずにいた為、鈴木さんに曖昧に返事を返した。


「そう……」


けれど本気で私の事を考えてくれている鈴木さんの残念そうな顔を見ると「友達が出来ません」と言う事も出来ず首を横に振る。


「けど会社の外では出来ましたよ」

 

嘘ではない。

ただ会社の中と外の違いだ。


「あら、良かったじゃない」

  

私の友達という言葉に鈴木さんは満面の笑みを浮かべてくれた。

鈴木さんは人の言葉に一喜一憂出来る本当に優しい人なのだろう。

そんな鈴木さんを見ると私も口から自然に言葉が出てくる。


「はい、近所の大学生の子なんですが、凄く可愛い子で庭が綺麗なんです」

「近所だなんて近くていいじゃない。いつでも話が出来るわね」

「そうなんです。よく休みの日は一緒に話しをするんです」 


鈴木さんは私がパックの野菜ジュースをストローで飲んでいると、自分の机の引き出しを開け、一枚の紙を取り出すと私の机の上に置いた。


「仲のいい友達が出来て良かったわ。良かったらこれ、友達とお喋りする時のお菓子に使って。うちじゃ食べ切れないから」


鈴木さんが机に置いたのは、会社の側のドーナッツ屋さんの無料引換券だ。十枚綴つづりのそれは、今月一杯の有効期限が記載されている。


「いいんですか?」

「いいのよ。私も娘もいつも一つ食べれば後は食べないし、旦那は甘い物が嫌いだからね」


私が遠慮がちに鈴木さんの顔を覗き込むと、鈴木さんは机の上の無料引換券を手で滑らせる様にして、私の右手の側まで移動させた。


「使ってもらった方が嬉しいわ」


私はそこまで言われたら断わる理由もなく、有り難く無料引換券を貰う事にした。

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