第6話 鳴海 涼 ✕ 綺麗な庭

大学生三年生の紗奈と私は年齢が近い事もあり、急速に仲良くなっていった。

最初は顔を合わせれば挨拶程度だったが、ササミに一緒に餌をあげると話が弾んだ。

そして仕事が休みの日には庭の花の手入れをたまに手伝う様になった。

何より会社の外で、話しが出来る友人が出来た事が嬉しい。

けれど一つ不思議なのは、大学生の紗奈があの様な立派な庭を作れる家に、一人でいる事だ。

彼女以外あの家の住人に会った事はない。 

だが他人の家の事情を詮索する訳にもいかずいたが、その機会は簡単に訪れた。


その日は仕事が休みだったので、私は朝の花への水やりを手伝う為に、紗奈の家に来ていた。


「ホースはいつもの所だよね?」

「そうよ。お願いね」 


私は紗奈に声をかけるとすっかり行き慣れた庭の奥に歩いて行く。

紗奈の家の庭は奥に外用の水道があった。

そしてそこに初めて紗奈に会った日に、彼女が持っていた、園芸用のシャワーヘッドが付いたホースが置いてある。

けれどその日はホースの前に一足の長靴が有り、ホースを取る事が出来なかったのだ。


「ごめん。ホースの前に長靴があるんだけど、これ移動していいの?」

「ちょっと待ってて」


私が勝手に長靴を移動していいものか分からず確認すると、紗奈はしゃがんで花壇の雑草を抜いている手を止めた。  

そして軍手を脱いで花壇の柵の代わりにしている石の上に置くと、立ち上がり私がいる水道まで移動し、長靴に手を伸ばした。 


「これお兄ちゃんが洗車した時に片付けなかったのね。全くもう」

「紗奈、お兄ちゃんいるんだ?」


 文句を言う紗奈に問い掛けると、何とも言えない微妙な表情で苦笑する。


「いるよ。けど最近は仕事が忙しいみたいで、あんまり家に帰って来ないよ」

「寂しくないの?」

 

私は紗奈の表情からこれ以上聞いていいものか迷ったが、突然会話を切るのも不自然な気がして、思い切って聞いてみた。


「寂しいけど、私の家は色々あって親がいないから、お兄ちゃんが働いてくれてる事に感謝しているよ。それじゃあ、私はこれ家の中に置いてくるね」

「有難う」

  

淡々と話す紗奈は長靴を持つと玄関に向かった。 

紗奈の家の駐車場はいつも空いていたが、普段は兄の車が置いてあるのだろう。   

そして仕事が忙しい為に、私は今まで紗奈の兄に会う事はなかったのだ。


私はこの街に引っ越して来る前の自分を思い出した。

引っ越して来る前も一人暮らしだったが、もし誰かと一緒に暮していたら、相手に寂しい思いをさせていたかもしれない。

そう思うと私は紗奈の兄ではないが、自分が紗奈に寂しい思いをさせている様な気がして、罪悪感が湧いてきた。

 

私は玄関に長靴を持って行く紗奈の背中を見ると、私が紗奈に寂しい思いをさせないと思った。

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