第3話 鳴海 涼 ✕ 謎の花と猫

最初に玄関に白い花が落ちていた日から六日が経った。 


私は今朝も玄関のドアを開けると、一番最初に玄関の外のタイルに視線を向けた。

そして無意識に花の数を数える。


(1、2、3、4、5、6)


最初はただ風で飛んで来た花だと思っていた。

けれど三日も経つと毎日、一つずつ増えていく花に不信感を覚え始めた。花弁が毎日数枚、風で飛んでくるなら分かるが、茎から花の部分だけもぎ取られた様な花が毎日、飛ばされくる事などあるのだろうか?しかも場所は決まって玄関のタイルの上だ。


誰かの悪戯にしても、何故こんな事をするのか全く意味が分からない。職場で嫌な噂話を聞きはしたが、職場の同僚に自宅の場所を教えてなければ、噂話の内容からも私に悪戯をする必要性を感じない。


(今度の休みは少し早目に起きてみようかな)


花は必ず朝、玄関のドアを開けると増えているのだ。

だが夜、私が起きている時間に外に人の気配はしない。しかも毎晩、深夜人気のない場所に、人がいるのを近所の住民に発見されれば、警察に通報されかねない。その為、わざわざ深夜に、他人の家の玄関に来る人物なんているだろうか?それならば新聞配達や早朝ランニングがいる朝だろう。


私は首をひねると、玄関に鍵を掛け自分の車に向かいエンジンを掛けた。  

そしていつもと同じ温度でエアコンを着けると、音量を低めにして音楽をかける。


私が借りている家は、昔ながらの民家の中に、何件か新築の家が経っている住宅街の中にあった。この住宅街は街の中心から少し離れた小高い丘にある。丘の頂上には公園も有り、休みになると、公園で子供を遊ばせている親を見る事もある。そしてコンビニも歩いて行ける範囲に有り夜は静かだ。 


住宅街を車で100メートル程下ると川がある。

私は川の手前まで来ると橋を渡らず右折した。橋を渡っても職場には行けるのだが、この街に来て一週間程経った日に、間違って右折をしてしまい、偶然にも川沿いの道が職場への近道になる事を知ったのだ。

それ以来、川沿いの道を走って出勤している。

 

私は車の中で流している曲の歌詞を口遊くちずさむと道路の脇に視線を動かした。 


この道には飛び出して来る動物がかなりいるのだ。

一番最初は猫、その次は狸。たぶん川の横の草叢くさむらが動物達が隠れ、巣を作るのに丁度いいのだろう。  

その為、気を付けて運転しないと悲惨な事になってしまう。   


私は道路脇の草が揺れているのを確認すると、ブレーキを少しだけ踏んだ。

そして草の中から出て来た茶トラの頭に注視した。


その頭は一度、飛び出して来た猫だ。 

額から尻尾にかけて茶トラの模様の猫は、額の下と四本の足は白い雑種の猫だった。首輪がない事から多分野良猫だろう。

 

この猫が初めて飛び出して来た時は驚いてブレーキを一気に踏んだ。

幸いにもあまりスピードを出していなかったから良かったものの、冷や汗が流れた。だがそんな私の心情を知らない茶トラの猫は、止まった私の車の前を通過すると、そのまま何処かに行った。

つまり前科者の猫なのだ。

その為、私はいつも以上にルームミラーにその猫が映るまで、気を張って運転をした。

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