第17話 元王女様は元国王様には一生敵わない

 今日は、エディの退任式と新しい王の就任式。

 そして、私達の結婚式だ。


 エディはかなり、国の重鎮達から引き止められたようだけど、あっさりと王位を明け渡した。

 私との件があったから、半年ほど前倒しになったようだけど、前もって準備していたこともあり、かなりスムーズに譲位が進んだらしい。


「ふう。やっと、肩の荷が降りる」


 エディと私は、新しい公爵家をこちらの国でも賜り、マグノリアでも公爵を新たに新設することになる。


 新たな出発の日だ。


「フラン、緊張してる?」

「――うう、分かる?」


 私はあまり緊張しない方なんだけど、今回ばかりはとても緊張している。

 マグノリアでは、あまりこういった大人数を集めて、派手な式典はしないし、お披露目会もしない。


 魔術が発達しているから、集まらなくても何処からでも見れるからだ。


「くすくす、可愛い」

「もう、エディ!こんな時にからかわないで!」


 私が拗ねた顔をすれば、エディはそっと額にキスをする。

 そう、こういった感じで、私はかなり甘やかされている。


 この1年の間。

 通いでこちらの国に来れば、2週間に一度くらいしか来ないのに、やたら豪華な部屋やドレスを用意され。

 結局のところ――ほとんど部屋から出してもらえた事はないのだけど――。


『フランは綺麗なんだから、どこからでも虫が湧いてくる!』


 というエディの主張で、部屋から出れても王宮からは一歩も外には出れなかった。

 私からすれば、エディの方が危ないと思うのだけど――。


 エディがマグノリアに来た時は、新たに住むお屋敷を見に行ったり、使用人達の事を考えたりと忙しくしていて、甘い空気にはならなかったからだとは思うのだけど。


『エディの我儘、聞いてやってください!』

 というノルバース様のお願いもあって、こちらに来た時は従っていた。


 だからこの国の重鎮達と顔を合わせるのは初めてで、かなり緊張してしまっている。


 (なんだかんだと、王太子様にも会えてなかったもの)


 エディの嫉妬が爆発していて、若い男の人である王太子にも会えていなかった。

 今日からは、新しい王様なのだけどね。


「あら、リサ――ではなかったのね。フランローズ様」


 式典の後のお披露目会のパーティー。

 以前、我儘放題だと言われていた、ランディス公爵令嬢が頭を下げた。

 その途端、周りを取り巻く空気が変わる。


 あのプライドの高い公爵令嬢が頭を下げたことに、みんな驚き、囁き合っている。

 

 でも以前より、派手ではないドレスも、薄化粧になったお顔も、とても綺麗で。


「――公爵令嬢。その節は失礼しましたわ」

「いいえ、貴女の心意気で、わたくし目が覚めましたの。やはり女性はこうでなくては!」


 そう言うと、がしっと私の手を握った。


「是非わたくしとお友達になってくれないかしら!」


 私の隣に立つ、エディはおかしそうに笑っている。


「――ええ、勿論。よろしくね、えっと……」

「レティシア嬢だよ」

 エディが私の耳元で名前をそっと囁かれ、私は頷いて言い直した。

 

「レティシア嬢――」

「わたくしのことは、是非レティと!」

「あ、はい、レティ」

「うふふ!嬉しいですわ!フラン様!」

 

 勢いに押されて、目を白黒させていると、エディがそっと回収してくれた。


「レティシア嬢。今日は妻を独り占めしたいから、ごめんね?」

「はっ!わたくしとしたことが!申し訳ございません!エディフィス様!」


 そう言うと、レティはそそくさとこの場を後にした。


「うちの奥さんは、ほんと罪作りだよね。人たらしっていうか……」

 エディ様は唸るようにそう呟くと、私をダンスフロアへエスコートした。


「フラン、ダンスは?」

「あまり踊らないの。マグノリアでは、あまりこういう派手な会はないから……」

「そう。誰かと踊ったことは?」

「うーん、いつもお兄様達がべったりで。お兄様たちとは踊るのだけど……」

「ふふ、シスコンにこんなに感謝したことないよ。じゃあ兄弟以外の男性と踊るのは初めてなんだね」

「ええ」


 途端にエディは破顔すると、とても嬉しそうな幸せそうな目で私を見つめていた。


 周りに取り巻く女性たちから、溜息が聞こえる。


 (エディ!色気出しすぎだわ!)


 思わず文句を言いそうになるけど、蕩けたような幸せそうな笑顔に私もやられてしまった。


 (ドキドキしっぱなしだわ、私)


 だって正装したエディは、本当にとても格好良くて。

 ずっと、ドキドキしていたのですもの。


「こうやって、フランの初めてをもらい受けるなんて嬉しいよ」

 そう言いながら、リードする姿はまるで絵のように綺麗で。


 (こういう所に翻弄されるのだわ……)

 

 一曲踊り終わる頃には、心臓のバクバクて死にそうな目に合った。


 (マグノリアの式では、負けないんだから!)


 謎の闘争心が芽生えたのだけど。

 やはり、エディの色気によって同じく完敗の目に合う事になるなんて。


 (うん、幸せ惚してるわ、私)


「フラン、愛してる」

「ええ、私もよ、エディ」


 こんな甘くて熱い感情が、ずっと続くなんて。

 この時の私は知る由もなかった。

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