第16話 王女様と国王様はプロポーズをやり直す
謁見の間から、王城の私の住まいにしている区域まで、2人で手を繋いで歩く。
まるで夢のような出来事だ。
謁見の間で彼を見た時、息が止まりそうだった。
ずっと会いたかった。
会えない間は、苦しくて、夜も眠れなくて。
私の事を忘れている内に、誰かと婚約してしまったら――。
そんな不安に押し潰されそうに、何度もなった。
あの微笑みを別の女性に向けるようになったら、私は――。
2度と会えないと思った瞬間に、地面が崩れ去るような錯覚に陥った。
だから今日会った時、ドキドキして彼から目が離せなかった。
約一ヶ月ぶりに会う彼は、とてもキラキラしていて。
思わす疑いたくなった。
お義姉様とお義兄様が、『俺達にまかせろ』っていうから、そうしてきたのだけど。
まさかラファエルお兄様の魔法を解くのに、こんな短時間で済むなんて――。
今回の事に協力してくれた全ての人に感謝している。
胸のドキドキはいまだにおさまらずに、こうして手を繋いで歩いていても現実だとは思えないほど高揚している。
「――そう言えば、さっきの言葉ってもしかして意味があるの?」
「えっと、“祝福”と“歓迎”かしら」
「そう、それ。ラファエル様が“歓迎”って言った途端、城内が湧き立ったから……」
マグノリアの予備知識を持っていない人は、あの言葉の意味がわからないだろう。
「私が言った“祝福”は、島の聖獣達の加護が得られるの。つまり貴方が王位に就いている間は天災や厄災は決して起こらないわ」
「えっ、そうなの?もっと早く知っておけば良かった……」
エディ様は驚いた顔をして、そして困ったように微笑んだ。
「でもね、聖獣達は人間を見てるから、あまり良い事をしてない王様には力を貸さないの。その点、エディは大丈夫よ。お兄様の聖獣に気に入られたようだから」
「気に入られた?」
「ええ、お兄様がもう一度記憶を封印しようとしたのを止めてたもの。聖獣は、わたくしたちを守護してくれているから、貴方が気に入らなけば、きっとお兄様を止めたりしてなかったわよ」
「そうなんだ……」
「そしてお兄様が行った“歓迎”は、島へ自由に出入り出来るようになったということ。つまり貴方がここで暮らす事も可能になったの」
「そんな意味が……」
エディ様は立ち止まり、そして私と手を繋いだままひざまづいた。
「俺は記憶のない中でも、ずっと君を夢見てた。記憶なんてなくても、さっきの謁見の間で会った時、強烈に惹かれたんだ。君にもう一度恋したっていってもいい。また一目惚れしたんだ」
「エディ様……」
「前も言ったでしょ?様なんていらないって」
私の頬に涙が伝う。
もう一度恋したなんて――。
「フラン――いや、フランローズ。俺が王位を退く1年後まで待っていてくれますか?そして、その――結婚する気は?」
まるであの時のやり直しのような、プロポーズ。
私はふわふわとした気持ちの中、彼の胸に飛び込んだ。
「喜んで。エディ」
ぎゅっと抱きしめられて。
彼の体温や匂いが、これが現実のものだと教えてくれる。
少しだけ体を離し、私の涙を指で拭う。
「その、自惚れていいのかな?あの時、フランが言ってた事は――本当?」
少し頼りなさげに揺れる瑠璃色の瞳は、記憶を消される直前のことを言っているのだと思う。
「ほ、本当よ。あの時勢いで言ったわけじゃないわ。あれは本気の言葉よ。あ、貴方の事愛してるって」
「フラン!」
もう一度ぎゅっと抱きしめられて。
唇が合わさる。
今日だけで、何度もしてる。
今までの時間を埋め合わせるように。
「早速帰ったら手続きに入るよ。でも甥っ子に子供が出来るまでは、王位継承権からは外してもらえないけど」
「それは――仕方ない事だわ」
「それと式は、どちらの国でもやる事になると思う――負担をかける事になるけど、ごめん」
「ふふ、楽しみね!」
2人で顔を見合わせ、もう1度唇を合わせた。
甘くて熱い口づけは、シシリーが様子を見に来るまで、しばらく続いたのだった――。
******
「もう!2人とも!遅い!でも許しちゃう!おめでとう!」
「お姉様!皆様!本当にご助力ありがとうございます!」
私が使う瑠璃宮には、お姉様やお兄様、そしてリアナ、お姉様の旦那様であるウェスター様、ノルバース様がすでに揃っていた。
エディと2人でサロンに入ると、揃って頭を下げた。
「あ、そうだったわ!」
私は、指に嵌る1つの指輪を外し、エディの手のひらに乗せた。
「これは?あの時の指輪――じゃないよね?」
「ふふ、そうよ。これはイミテーション。本物はこっち」
そう言うと、首からぶら下げていたあの時の指輪を見せた。
「イミテーションっていうか……こっちの方が高い石が嵌ってると思うんだけど」
「強度が足りなくて――皆様の魔力を注ぐと壊れそうだったの。これはリヒト兄様の特製よ」
「みんなの?」
「そう。お兄様の魔術は強力だから、万が一私の魔力が足りなくて、封印が解けなければ、これが発動するはずだったの。ここにいるみんな、そしてノルバース様のお祖母様の魔力も入ってるわ」
「そんな大事なものを?」
「うん、貴方に持ってて欲しいの。変な輩がいたらそれで殴れば魔術が発動するし、転移魔法の時にも使えるから――リヒト兄様」
「了解した」
リヒト兄様が手をかざすと、エディの中指にサイズぴったりに収まった。
「おお?!」
エディは単純に驚いた声をあげている。
「君達、今後はしばらく遠距離恋愛になるからさ。まあ休みの度にフランも行くし、君もくるだろうけど――この魔法陣も渡しとくよ。君の部屋とこの部屋に転移できるから」
「ふふ、私がお姉様のを真似て描いたのよ!」
私が得意げに言うと、エディは目を細めて見つめていた。
「本当に、何から何まで……」
「いいのよ!あのラファエルお兄様をやり込めただけで満足よ!私達!」
私と同じようなテンションでお姉様が言うと、エディは少し泣きそうな顔をした。
「君達兄妹は本当に……」
「うんうん、そういうエディとも義兄弟になるだな。やっぱり君とは縁がある」
ウェスター様がそう言いながら肩を組むと、エディは泣き笑った表情に変わった。
「あっ!勝手に1人で行かないで下さいね!俺もシシリーに会いたいんで」
もう片側をノルバース様が組むと、3人は顔を見合わせて笑っている。
「――まったく男同士で、むさ苦しいったら……」
そういうお姉様も嬉しそうな顔をしていて。
「フラン、良かったわね」
「リアナも、リヒト兄様とのこと、おめでとう」
どうやらリヒト兄様は、リアナがお母様の葬儀にやってきて以来、ずっと気にかけてきたみたいで。
手紙のやり取りや、こっそりリアナに会いに行ったりして、いつのまにやら婚約していたのだ。
今回の件で落ち込んだリアナを励ましたのが、2人か急速に仲良くなったきっかけだったみたいで。
(色々あったけど、丸く収まって良かった)
私は心底安堵した笑みを浮かべたのだった――。
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