第11話 王女様は真摯に愛を告白される
楽しかった別荘地での時間も終わりを告げた。
急ぎで戻らなければならなくなったアリソン叔父様は陛下が乗ってきた小ぶりの馬車で、王都へ出発していた。
なので帰りの馬車は、陛下、ノルバース様、リアナ、シシリーの5人となった。
陛下の前だと、リアナの顔はこわばっていて、青白い。
昨日のエラン様の姿ではなく、キラキラとしたイケメンである国王が目の前に座っているのだ。
緊張がこちらまで伝わってくる。
ノルバース様が気をきかせて、色々と話をして緊張を解そうとしてくれているけど、余計に萎縮してしまっているようだ。
(この状態で、半日持つかしら……)
王都と、別荘地の中間点まで行ったところだろうか。
「リサ……私……」
口元を抑え、苦しそうにするリアナ。
「陛下、少し休憩しても?」
「ああ、勿論だ」
リアナの様子に、陛下は御者台に座るものに指示を出し、馬車を止めさせた。
降り立つと、のどかな田舎の風景が広がっている。
「お嬢様、あちらに川が」
シシリーの言葉にうなづくと、極度の緊張と、馬車の揺れで、今にも嘔吐しそうなリアナを支えて、川辺までやってきた。
リアナは水を掬い、口に含むと飲み干した。
「ごめんなさい、私ったら……」
「大丈夫よ。少し休みましょう」
座れるような大きな石の上にハンカチを広げて、リアナを座らせた。
「リアナ、少しだけ魔法を使っても?」
「ええっ?!私の為にそんな……」
「――少しだけ、きっと気分が悪いのがよくなるから」
「ううっ……ほんとリサには迷惑かけてばかりで……」
「いいのよ。この旅は、リアナに合う為でも会ったのだから――シシリー」
「はい、お嬢様」
シシリーは私が命じる前に、3人がすっぽり隠れるような結界と誤認識魔法を使った。
私が何をしているか、外からは何も分からない。
手を翳し、リアナの体に当てると、金色のキラキラとした光が身体を覆った。
しばらくすると、光が消える。
「あれ……急に体が軽くなったわ」
「ふふ、少しだけ、ね」
「フラン、ありがとう」
リアナは満面の笑みで、私に頭を下げた。
「ありがとう、シシリー」
「はい、お嬢様」
そう言うと、シシリーは結界を解いた。
「――今のは一体……?」
はっと顔を上げると、そこにはノルバース様が唖然とした表情で立っていた。
どうやら、シシリーの魔法を見破られたらしい。
私とシシリーは顔を見合わせると、シシリーは落ち着いた様子で、ノルバース様へ近づいた。
「わたくし、魔法剣士ですので、結界などは得意なのです」
「――そうでしたか!見事な結界でした……思わず見惚れるくらいの」
ノルバース様は、うっとりしたした表情でシシリーを見つめている。
まるで恋する表情だ。
(ひょっとして……?)
「――そうですか。あっ、すいません。通信が入ったようです」
そんな事に気づきもしないシシリーは、慌てたように私の側へ戻り耳元で囁く。
「――リヒト様からです」
「リヒト兄様?」
「はい、何かあったのでしょうか?」
「――分からないわ。とりあえず出て頂戴」
「分かりました」
そう答えると、シシリーは茂みに入っていく。
「――ご気分はどうだい?リアナ嬢」
「陛下!」
慌てて立ちあがろうとした、リアナを陛下は手で制した。
「いや、そのままで。此処で少し休むと良い――リサ嬢、少しいいか?」
陛下はそう言うと、私の手を取った。
「ええ、でも――」
「私が見ていますので――どうぞお気になさらずに」
ノルバース様に背中を押されるような形で、そのまま陛下に手を引かれて、川辺を歩く。
辺りはのどかな草原が広がり、歩きやすい。
しばらく歩いたところで、陛下は足を止めた。
「――その、酔った勢いで言ったわけではないんだ。俺は君に恋してる」
握られている手を、さらにぎゅっと握られて、彼の緊張が私まで伝わってくるようだ。
「陛下……」
「プロポーズした時も、俺は本気だったんだ、リサ。女遊びが激しいと噂されてる俺が、こんな言葉いっても信じられないかもしれないけど――一目惚れだったんだ」
「えっ?」
「凛とした佇まいで、一枚の魔法陣を前に泣く姿が、目について離れてくれない……あの時ハンカチを君に渡したのは、俺だ」
喉がひゅっと息を呑む。
陛下は自身がエラン様であることを、認めたのだ。
知っていた事とはいえ、彼は真剣に私のことを考えてくれている。
それなのに、私は――偽りの姿と身分で、彼を騙してる。
(このままじゃいけないわ)
例え身分を明かし、ラファエルお兄様との約束を破る事になったとしても。
この旅が終わりを告げる事になったとしても。
これ以上は、もう騙せない――。
「陛下、わたくしは――」
ズドーンッ!!
爆発音とともに地面を切り裂いた、大きな衝撃風が、体制を崩させた。
咄嗟に私を庇い、囲い込むように陛下は私を抱きしめている。
「ぼ、僕のフラン様に触るなああ!」
土埃が消え、そこに立っていたのは――。
「えっ?!グリフィス?!」
目の焦点が合ってない、憤怒の顔をした幼馴染が立っていた――。
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