第6話 王女様は国王陛下(変装姿)の予想外のお誘いに歓喜する
突然のプロポーズのお茶会から、一夜。
あの場での会話は、アリソン叔父様が手を回し、すぐに箝口令が敷かれてたにも関わらず――漏れ聞こえした会話が、一部の貴族に漏れてしまったようだ。
「はあ」
「災難でしたね、お嬢様」
私はシシリーと、あてがわれている来客用の部屋でのんびりお茶を飲んでいる。
本当は庭に出て――というところなのだが。
(まったく、陛下がとんでもない事を言い出すから……)
お陰で有力候補と意気込んでいた、ランディス公爵令嬢の恨みをかったようだ。
そして今まさに、この侯爵家の屋敷に公爵令嬢はやってきて、使用人相手に当たり散らしている最中だ。
何故のんびりお茶が飲めているかといえば、シシリーが辺りに防音効果と許可している人以外は入れないような結界を作ってくれたから。
アリソン叔父様曰く、ランディス公爵令嬢はひとしきり暴れれば落ち着くだろうとの事。
この屋敷の使用人達は、優秀で。
こういう対応も慣れているらしい。
とはいえ、私に原因があるわけでもないのだけど、心が痛い。
(あの場であんな事言うから……)
王宮は、どこも似たりよったりで。
緘口令が敷かれたとはいえ、漏れ出てしまう話もある。
神獣に守られていて、絶対的君主がいるマグノリアでさえ、こういった事は起こりうるのだ。
(迂闊すぎるのよ……)
政治面では優秀だと言っていたはずの国王。
本当に優秀なのか、疑問に思ってしまう。
「お嬢様」
シシリーが、私を呼んで目線をバルコニーへ向ける。
この客室は3階なので、バルコニーに人がいるわけはないと思っていたのだけど。
「えっ?へ……じゃなくてエラン様?」
エランの姿をした、今まさに噂の陛下が立っているではないか。
どうやってここまで上がってきたかは置いといたとして、此処にいるのは不味くないだろうか。
「入れてあげて、シシリー」
「はい、お嬢様」
シシリーがバルコニーへ続く窓ガラスを開けると、エラン様は慌てた様子で中へ入ってきた。
「どうされたのです?エラン様」
「リサ嬢――この度は申し訳ない!と陛下がおっしゃっていて……。俺が伝言してこいと……」
あくまでも、自分は陛下の使者だと言い切るつもりだろうか。
本来の姿は分かっているとはいえ、なんだか可笑しく思えてきて。
「――そうですね……。迷惑ではありますか……」
突撃してくる令嬢も、それを許している親も。
陛下より悪いのは、そちらではないだろうかと思えてしまう。
それに偽りの姿とはいえ、謝りにきた陛下を責めるつもりはない。
「その、陛下が避難場所として、王族の別荘へ招待したいと――そんなに長くは滞在できないだろうけど、侯爵家よりはマシではないかと……」
エラン様は遠慮がちにそう言うと、目を伏せた。
「景色が、良くてね。たまに行くと心が洗われるようなのだよ!あと見た目は古城なのだけど、中身は入れ替えたり補修したりして、とても近代的だから、安心してほしい。あと、近くに温泉の源泉が湧いてね。お湯を引いてるから!勿論、地域住民用のお風呂もあったり、ホテルが立ったりしてるから観光客もいるけど、基本は静かな田舎街だ!」
なんだかアピールポイントがいっぱいの別荘らしい。
その必死さが、つい彼の本来の姿が垣間見えて。
(陛下として前に立たれている時は、自信満々で。勿論王として、そうであるべきでしょうけど。でもエラン様の姿の時はどこかおどおどしていて。どちらが本来の本当の姿なんでしょう?)
私はこの人自身に、興味が湧いてきた。
「本来ならランディス公爵を諌める事が先決なのだが、迂闊に手を出せない相手でね……」
「公爵家ですものね……」
公爵と名乗っているからには、王族の血が多少なりとも入っていて、あの令嬢を見ている限り、こちらの常識など通用しない相手なのかもしれない。
陛下からお願いしたとしても、無理難題を押し付けてくる可能性がある。
「気にしないで――とは言えませんが、わたくしがこの国にいるのはあと10日くらいなので……ほっとけばほとぼりも収まるかもしれませんね」
「えっ!?10日!?」
私の言葉にエラン様は、瞳を大きく見開いた。
「そんなに早く帰ってしまうのか……」
「ええ。兄から許可が出た日数が、それくらいなので」
「そうなのか……」
エラン様は、酷く落ち込んだ表情を浮かべている。
(なんだか捨てられた大型犬のようね……)
こちらが悪い事をしているような気になってくる。
「別荘の件は、了承しましたと、お伝え下さい。勿論、アリソン叔父様とリアナも一緒にいいですわよね?」
「勿論だ!そのつもりで誘いに来たのだから!」
(若干、自分の設定を忘れてません?)
食い気味で返事をしたエラン様を見ていると、可笑しくなってきた。
「では急いでお帰り下さい。客室とはいえレディの部屋ですし」
「ああ!明日早い時間に迎えに来る!」
エラン様は、そう言うとテラスへ出てあっという間に消えてしまった。
「――お嬢様、良いのですか?」
「ふふ、だってあんなしょげた姿見せられたら、ね」
「まあ庇護欲を誘う感じでしたけどね……」
「それに、温泉よ!温泉!一度で良いから入ってみたかったの!」
「それに関しては、完全に同意します」
「叔父様達も喜ぶと思うわ!」
シシリーと2人、エラン様が消えたテラスを見ながら、笑い合った。
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