第5話 国王様は運命のお茶会へ挑む
「はあ、今日もお茶会か」
「エディ、溜息しないで」
憂鬱な気分で王宮の廊下を歩く。
隣には俺の側近である、ノルバース。
公爵家の次男で、突然王となった俺についてきてくれた1人だ。
歳の離れた兄上が亡くなったのは、本当に突然だった。
流行り病だったそうで、俺が隣国から戻ってきたら時にはもう亡くなった後だった。
(遺言に近い手紙を受け取って、兄上の苦悩を知ったんだ)
だから遺志をついで、王になった。
兄上の息子である、王太子にバトンをちゃんと渡す為。
俺は王座にしがみつく気はない。
周りはどう思っているか、知らないが……。
「中継ぎの王に、妃など必要ないだろう……」
「そうはいっても、万が一王太子に何かあれば、やはりエディやエディの血筋が立たねばならなくなるのですよ?」
「まあ、そうなるんだろうけどさ……」
兄上の事もあり、臣下たちは第2、第3の王位継承権を持つ者をという声が多くなってきているのは知ってはいる。
「だが、あのランディア公爵令嬢は駄目だ。見ているだけで吐き気がする」
本人の前では繕っているが――本音は出来れば同じ空気を吸いたくないと思ってしまうほど、嫌悪感が拭えない。
「でしょう?黙っていたら彼女に決まりそうだったものを、宰相殿と画策して、お茶会を開く事にしたのですから――早くお決め下さい」
「そうは言ってもなあ」
今まで数人と会ってはみたものの、これといって興味を惹かれる令嬢はいなかった。
(あっ……)
「1人だけいたわ。彼女となら――」
「誰です?!」
食い入るようにノルバースが俺を見る。
「昨日会ったばかりだが――リサとなら……」
「駄目に決まってるでしょう」
迷う事なく、ノルバースは否定的な言葉を発した。
「だいたい、素性の知れない女性を妃に迎え入れることなんて出来ないのは、貴方が1番わかっているでしょうが」
「それなら、今から調べれば良い」
「はい?」
「リルバー商会にいたのだし、素性がしっかりしてないわけではないだろう?」
あの魔法陣を取り扱うエリアは、そう易々と入れるエリアではないのだから。
そもそも魔法を使わない人が行くところでもない。
「だとしても、駄目です。彼女は何というか……」
「?」
珍しく言葉を濁すノルバースを、足を止めて食い入るように見る。
「――口で説明するのは難しいですし、僕もぱっと見ただけですが……何というか祖母に会った時のような威圧感というか……」
「お前の祖母って、あのマグノリア出身のか?」
「そうです」
「ってことは、魔法使いなのか?」
「分かりません。ぱっと見ただけですし……だけど彼女は危険です」
「はっ、危険。いいじゃないの」
「エディ!」
俺はノルバースを残して、歩みを進める。
(あんな綺麗な涙を流す人が危険人物なんて、ノルバースの思い過しだろ)
凛と立つ姿。
一瞬で目を奪われた。
今まで色んな女性と巡り会ってきたと思うが、彼女は別格だ。
魂からでる気高さが滲み出ていた。
なんで周りの奴らが彼女に気づかないか、不思議だったが――。
「そうだ。今日はそのリルバー侯爵令嬢ですよ、お茶会の相手」
ノルバースは、いつのまにやら俺に追いついたようで、隣に何食わぬ顔をして俺の隣を歩いている。
「そうか。リサの事が少しでも聞けたら良いが……」
「はあ、まったく貴方は人の忠告を聞かない人だなあ」
「俺の直感を信じてるだけだ」
そんな事を言い合いながら、俺たちは王宮の庭にある東家まで辿りついた。
俺たちの姿を確認してか、令嬢が頭を下げている。
そして。
そのすぐ後ろ。
侍女と並ぶように、昨日よりも豪華なドレスを身に纏ったリサが立っていた。
(綺麗だ……)
ただ綺麗なだけじゃない。
彼女そのものが、美しくて俺の目から離れない。
(これは運命だ)
俺は歩みを進め。頭を下げている侯爵令嬢を通り過ぎ、リサの前に立った。
そして――。
「君、名前は?」
「へっ?私?」
リサの名は知っている。
だけど昨日会ったのは、ノルディスに変化の魔法をかけてもらった姿だ。
初対面の俺が、名前を知っていたら――ちょっと危ないやつだろう。
彼女は大きな瑠璃色の瞳を、さらに大きく見開いて此方を見ている。
彼女の視線を独り占め出来ていて。
ずっとこの時間が続けば良い。
そんな馬鹿な事を考えてしまう。
「――リサ、ですけど」
伏目がちに答える彼女は、とても愛らしくて。
彼女の手を握り、俺は思ったままを口にした。
「ではリサ殿、俺と結婚する気は?」
「はあ〜?あんた、馬鹿じゃないの?」
間髪入れずに答える彼女が、何とも愛おしくて。
俺は笑いを噛み殺すのに、必死だ。
俺の発言にも、リサの言葉にも。
周囲にいた使用人達は凍りついている。
特にノルディスは、フリーズしている状態だ。
「ほんの数分前に初めて会った私の何を知っていて、そんな事を?」
「ん、直感だな」
それは嘘偽りない言葉。
運命の女性だと感じた俺の。
俺が愛おしそうに彼女を見つめながら笑顔を浮かべると、周りの侍女達や従姉妹は悲鳴が聞こえてきた。
(いつもなら不用意に笑顔を見せたりしない)
自惚れでもないが、自分自身の容姿が整っていることは理解していて、こんな笑顔を女性達の前でふりまくことはない。
だけど彼女には。
(我ながら必死だな)
どうすれば繋ぎ止められるか、必死で考えていて。
この後周囲がどうなるかなんて、何も考えてなかったのだった――。
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