第3話 王女様は従姉妹と再会する

「フランローズ様!」

「リアナ!」


 3回転移魔法を使った後。

 無事に母の祖国、フィッツ国のリルバー侯爵家の屋敷へとやってきた。

 直接飛んでこれるように、屋敷の地下には魔法陣が敷かれていたから、初めて来た場所でも迷わず飛んでこれた。


 繊細に描かれた魔法陣は、母が生前に描いたもの。


「フランちゃん!よく来たね!」

 母と同じ、白銀の髪に翡翠色の瞳、顔つきもどことなく似ている叔父様は、笑顔で迎えてくれた。


「アリソン叔父様!」

 リアナとの再会のハグから、叔父様へのハグをすると、コホンと咳払いが聞こえた。


「――あ、シシリーも一緒に来たのよ」

「アリソン様。お世話になります」

 シシリーはお辞儀をすると、アリソン叔父様は目を細めた。


「久しぶりだね、シシリー」

「はい」

 シシリーは返事をすると、リアナに向かい合った。


「リアナ様もお久しぶりでございます」

「ふふ、シシリーは相変わらず綺麗ね」


 私が産まれてすぐ、お母様はこちらに里帰りしていたこともあり、この魔法陣を描いたそうだ。


 リアナとは従姉妹同士ということもあり、アリソン叔父様に連れられて何度かマグノリアを訪れており、ずっと手紙のやり取りもしていた。

 

 前に会ったのは、1年前のお母様の葬儀の時だ。


「お祖父様達は?」

「体調が思わしくなくてね、妻と領地にいるんだよ」

 アリソン叔父様は、そう言うと私達を屋敷の中へ案内していく。


 リアナとは手を繋いで、2人で階段を駆け上がった。


 屋敷内のサロンに案内され、リアナ自らお茶を淹れて、叔父様の隣に座った。

 使用人たちにも、あまり会わせないような配慮を感じる。


「色々やりたい事とか、あるんだろ?フランちゃん」

「ええ!」

 私は目を輝かせて返事をすると、アリソン叔父様は苦笑いを浮かべた。


「叔父様の商会に行ってみたいわ!お母様が描いた魔法陣も色々あるのでしょう?」

「ああ。まだ何枚も残っているよ」


 リルバー侯爵家は、成金侯爵と言われるほど、自ら経営する商会は名を馳せている。

 お母様はそこで、魔法陣を描く仕事をしており、評判を聞いたお父様が訪れて恋に落ちたという。


 (お母様の魔法陣、見てみたいわ!)


 私達マグノリア国の人々と、この国の魔法は性質が異なる。

 この国の魔法を扱う人達は、魔法陣が無ければ魔法を発動できない。

 魔術師と呼ばれていて、質の良い魔法陣を描ける人は、人気があり引っ張りだこだ。

 

 対してマグノリア国の人達は、魔法陣無しで魔法が発動できる。

 大きな魔法は、呪文たる詠唱を必要とするけど、簡単な魔法なら省略することも可能だ。

 一般的に魔女や、魔法使いと評されることが多い。


「――フランちゃん、実はお願いがあるんだよ」

「なんですか?叔父様」

「この国の国王の事、知ってるかな?」

「ええっと、2年前、代替わりされて、先王の弟君が国王になられたとか」

「そう、その国王なのだけど……」


 そう言い言葉を濁すと、叔父様はリアナの方を向いた。


「――実はお茶会に招待されているの」

「リアナが?」

「ええ、侯爵家以上の子女達は全員参加なのだけども……」


 妙に言葉切れの悪いリアナに、シシリーと顔を見合わせた。


「女性に対して、あまり良い評判は聞きませんね」

 シシリーは重い口を開くように呟く。


「そうなの?」

「はい。他の国の王達は就任すれば、マグノリアに挨拶に来ますが、今のエディフィス王は訪れてませんし、予定も聞いておりません」


 神々が住む島と評されるマグノリアに、敵対しようする国はいない。

 それどころか恩恵に預かりたいと思い、国王が挨拶に来る事が習慣化されている。


「それは――エディフィス様は、あと2年後に王太子にその座を譲るつもりだから……」

 叔父様は呟くと、溜息をついた。


 元々王弟ということもあり、自由にされていたらしい。

 隣国へ遊学中、兄の訃報を聞いたらしい。


「政治手腕は、まったくもって問題ない。むしろ先王より無駄を省き、簡略化されて楽になった部分や、国民の暮らしの質の向上していて、賢王だとも言われてるのだけども――その女性にだらしないとか、色々噂があって、婚約者選びが難航しているんだ」

 

「だから心配した臣下たちから、年頃の女性たちとお茶会を開くということになったのだけども……」


 アリソン叔父様の後に、リアナは話すと目を伏せた。


「ほら、リアナは人見知りが激しく、初めての男性に声をかけられても返事すらできないかもしれないだろう。本来なら母親がついていくのだろうけど、今領地だから……」


 婚約者がいる女性は、今回のお茶会は免除されていて、行く人数も少数。

 毎日、1時間ぐらいの時間をかけて行われているらしい。


 私より1つ下のリアナに婚約者はいない。

 人見知りなこともあり、アリソン叔父様も自分で選んだら良いと、口を出してこなかったようだ。

 政治的に此方と縁を結びたい家はたくさんあり、縁談は常に話はあるようだが、今のところリアナは誰とも会おうとしていなかったらしい。


「それに、もう婚約者候補はいるのよ」

「そうなの?」

「公爵家の令嬢なんだが、気性が激しく我儘らしくてな。評判が悪い」


 出来れば別の女性と結婚したい――向こう都合が見えてくる。


 (自分の都合の良い、女性遊びにも何も言わないお飾りな妃が欲しいのかもしれないわ)


 そう言った意味では、リアナは丁度良いのかもしれない。

 引っ込み思案で内気で、言いたい事を半分も言えないような子だ。

 家柄でも侯爵家なら丁度良いし、気性の激しそうな、公爵家のお嬢様には無理だろう。


「わたくしが付いていって、ぶち壊しにすればよいのね?」

「そこまでしなくても良いのだよ、フランちゃん」

 叔父様は、苦笑しながら頭をかく。


「だがリアナが望まない結婚は、させたくないんだ。だから――」

「わかりましたわ」

「お嬢様!?」


 私の即決にシシリーは、驚いた声を上げる。


「大丈夫よ。マグノリアに来たことないなら、私の顔なんて知らないわよ」

「しかし……」

「シシリーも付いてきてくれるのでしょ?」

「それはそうですが……」


「良かった!お茶会は3日後だからね!明日商会で、ドレスを選ぼう!」

 叔父様は手を叩き、決まったとばかり叫んだ。


「フランローズ様、本当に良いのですか?」

「いいに決まってるわよ。リアナの役に立てるなら」

「――ありがとうございます」

 そう言うと、リアナは頭を下げた。


「とはいえ、名前とかどうされるおつもりですか?アリソン様」

 シシリーは冷静な声を上げると、叔父様は頷いた。


「一族に、フランちゃんと同い年で身体が弱くて王都にも一度も来れてない子がいるんだ。その子の名前を借りようと思ってる」

「大丈夫なんですか、それ」

「お茶会などなくても、フランちゃんの名前は使えないと思っていてね。父親から使っていいと承諾を得ていたんだ」


 自慢げにアリソン叔父様が言うと、シシリーは溜息をついた。

「そこまで用意されていたのですね……わかりました」

 シシリーの諦めたような口調で、お茶会行きが決定したのだった。

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