雨が臭い

 台風がやってくるらしい。

 北半球にいるから台風の進行方向の右側が危ないらしい。風が強く吹いていくらしい。家は新築だから、ニュースに出てくる外国の家のように飛んでいくことはないはず。でも、おじいちゃんの家は100年くらい経ってる木造の家だから少し怖い。

 梅雨のときの雨の匂いは雨上がりの道路の上でしか感じないのに、台風の前の雨は降っているときから匂いが鼻につく。

 夏休みのラストはいつも雨が出しゃばってくる。甲子園もたまに、相手校と同じように雨を相手にバットを振るのだろう。春とは違う夏の思い出。

 雨が振っている間の我が家は密室殺人の密室状態になっている。外界とのコネクションはスマホとTVとラジオ。電話以外のものはコネクトという単語にふさわしいのかわからないが、今回は当てはめておく。友達とのSNSの会話も一言二言フリック入力するだけで、雨音が、遮るからスタンプでも送って首の皮一枚繋げないといけない。湿気た会話にならないように風通しもよくせなあかん。

 お母さんに部屋が湿気るから窓は開けないようにと言われるけど、家にエアコンがないから窓を開ける以外の選択肢が取りようにない。すると、部屋の中は匂いで充満する。

 誰かが虫の鳴く音を聞いて季節を感じるように、初雪で淡い恋愛のクリスマスを感じるように、スイカを食べて夏を感じるように、その匂いにも何かを感じられるようになりたい。そうすれば親の言う大人に近づけるのだろう。そうすれば誰かの夢の詩人や作家になれるのだろう。

 先輩が学園祭でつける香水は臭かろう。たまに学校ですれ違うきつい制汗剤の臭いはきつかろう。同じくらい雨の匂いは匂うだろう。

 睡眠へといざなう雨音、休日の午後感を強める雨音のどれもがこの匂いをオブラートに包み込めない。ストレートな匂いに毎年やられる。

 完璧な密室をつくったら感じるのだろうか。

 日常の、身体の一部となったマスクを二重にでもしたら感じるのだろうか。

 きっとテレビに出るような有名人ならごまかせるかもしれない。

 一度、幼い頃、幼いというと自分がまるで年を取ってるように感じるがほんの十年ちょっと前だ。その頃の自分は雨がふる度に長靴を親に買い求めた。映像も残ってる。親が面白がってスーパーにでも連れていくと真っ先に映像の中の自分は長靴売り場のようなところまで走る。お菓子の棚も、好きだった記憶のある仮面ライダーのベルトも横目に一目散に走る。長靴のおいてある棚にたどり着くと、ただでさえ種類の少ない中から花柄、水玉模様、日本風な柄、ライダーものの柄、メカが描かれたいかにもな柄の全部を片方ずつ取ってきて、ごちゃまぜにしてランダムに長靴を履く自分。お気に入りのファッションが見つかると親にねだる。しかし片方ずつなんて買えないから親は自分をなだめて帰る、という映像が残ってる。

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おせち箱 ひなた、 @HirAg1_HInaTa

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