真夏の夜の贈り物

龍神雲

真夏の夜の贈り物


 その日は蝉がジワジワとずっと鳴いていた。ある日の夏の夜のこと──


「こちらNo.ゼロ、No.イチに告ぐ──……準備は万全か?」


「万全だ、行くぞ!」


 幼い男児二人の耳にはハンズフリーのイヤホン、手には虫取網、肩からスリングさせるようにしてぶら下げているのは虫かごで、森を駆け抜けていく。クワガタかカブトムシをゲットしたい一心で森を一心不乱に駆け抜ける二つの人影は、予め蜜をセットした場所へと向かっていた。地元の森は二人にとっては遊び場であり、狩り場でもあった。 暗くとも地形は手に取るように分かり、何の迷いもなく目的の大木へと辿り着いた。だがそこにクワガタやカブトムシの姿はなく、ほっそりとした体型の、白いワンピース姿の少女がぽつねんと立っているのみだった。地元でも見掛けたことのない少女で、二人が少女に近づいた刹那──


「ごめんなさい……」


 やがて、少女は二人を交互に見詰めたのち謝罪した。男児二人は謝罪された意味が分からず首を傾げれば、少女は徐に口にした。


「あなた達が虫用にセットした蜜、全部私が食べちゃったの。とてもお腹が空いてて……だから、ごめんなさい」


 少女は再び謝罪し、それから間も無くしてすっと消えた。男児二人は顔を見合わせたのち、どちらかともなく口を開いた。


「今のって、幽霊……?」


「かもしんねぇ……」


 そして翌日の夜、同じように同じ大木に蜜の仕掛けをしてみれば──

『過日は失礼しました』といった達筆なメモ書きが大木に貼られ、蜜を仕掛けた場所には大量のクワガタとカブトムシが集まっていた。幽霊なりのお礼なのか、それとも──……謎は深まるが、男児二人は虫かごにクワガタとカブトムシを捕獲することができた。


「「ありがとう」」


 二人はお礼を言ったのち、金平糖を詰めた瓶を大木の側に置き去った。きっとまたあの少女が現れることを信じて──


──ありがとう


 そして二人が去ったのちその瓶は綺麗になくなり、後には大量の紋白蝶がふわふわと飛んでいくのだった──

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