4 義眼の片隅に(前編)(ヴィーニュ王国カンタン・クノー宰相視点)

 先日せんじつ

 フラ王女おうじょ宰相さいしょう補佐ほさかん暴行ぼうこうけた。

密使みっしが受けたとはおおやけ出来できないからだ。)

 そのにいたわたししょう

 私の場合ばあいは暴行ではなく、傷害しょうがいだそうだ。


硝子がらす運動うんどう」の対応たいおうわれていた王きゅう警察けいさつ部隊ぶたいから、こちらがわ増員ぞういんされてたとき。

 大事だいじにしてしまった自分じぶんじた。

 しかし、結局けっきょくかったのだろう。

 王女のひんはそもそもちていたし。

 王ぞくの「戦争せんそうらない生活せいかつぶり」は国民こくみんけん

 挽回ばんかいしよう。

 つうなら、そうおもうが。


 フラ王女は「国際こくさい条約じょうやく調印ちょういんした=くにうごかすちから」にったのだ。

 宰相や宰相補佐官をせんたたつぶすほど。


 もちろん、しろいデブネコつ扇子で潰されるハエ後日ごじつ掲載けいさいされた。

 われながら、「あやつ人形にんぎょう」として風刺ふうし掲載はれていたが。

 とうとう、ひとかたちではなく、羽虫はむししてしまった。

 そして、げいこまかい。

 両目りょうめが潰れた羽虫。



 王宮警察は熱心ねっしんに宰相執務しつむしつ写真しゃしんっていた。

 質素しっそ以上いじょう清貧せいひん以上のみすぼらしい……部屋へやだろう。

 ぜいをつくした王宮ないで、一番いちばんかん素な部屋なのだ。

 だれかがっていた。

泥棒どろぼう休憩きゅうけいじょ」。

 この王宮は、がつけられないほど、価値かちのある国宝こくほうやま

 つまりは、王宮内にはいりこんだ泥棒がもっと心地ここちかんじる

 それほどまでに、華美かびいということらしい。


 さらに、王宮警察は。

 私のあかくなったひたいと、顔面がんめんの写真を熱心に撮影さつえいしていった。

 この動かぬ証拠しょうこ写真によって、新聞しんぶんでも大騒おおさわぎになってしまった。

 私の執務も二日ふつかめになった。



 その

 なんとか執務に復帰ふっきは出来たが、ものの見事みごとがんこわれていっては、あたらしい義眼をはめている。

 新しい義眼はここはち時間じかん使つかえば、れてしまう。

 きゅうごしらえ。

 あく材料ざいりょう

 義眼職人しょくにんじゅくなせい。

 王都の職人でさえ、このさまだ。

 みぎだけで、ニにじゅっもの義眼を駄目だめにした。

 ひだり十六じゅうろっ個。

 けいさん十六個も、がんの中で割れてしまった。


 こく使するなと言われても、王宮内はひどさまなのだ。

 魔術まじゅつ遺産いさんみにふくがった、ぞうと、のろいじみたなにかがせてる。

 じょの中にも、かたちある魔術遺産ではなく、形き、「見えない何か」におびえるように、「おひまをいただきます」と言いのこして、王宮からはなれてった。

 私の顔面も、どの医者いしゃにもなおせぬ呪いをって、膨れ上がって来た。

 王女の扇子で叩かれただけで、顔のにくはじめている。

 消毒しょうどくいつかない。


閣下かっか、義眼がいませんか?」

嗚呼ああ。やはり、きゅうごしらえの義眼は、また故障した。

 王女殿でんに壊されたもの一点いってんものだった。

 どうしようか……」

 けっしてやすくはない義眼。こうつくるも、すぐ壊れた。

 仕方しかた無い。

 きちんとしたやすみを取って、パント義肢ぎしかんこう。


 戦後せんご、義肢製作せいさくいつかないほどだ。

 宰相だと言っても、順番じゅんばんちはかくしなくてはならない。

 あの子は。

 ミエル・オスはもう、しん学校がっこうかよっているだろう。

 戦争が終わったら、子どもはきちんと教育きょういくけなければならない。

 戦争はわったんだ。


毎日まいにちのように義眼がれています。

 つくなおすには時間じかんがかかります。

 予備よびは?」

空襲くうしゅうで駄目になって、のこった予備が壊された義眼だった」

「義眼職人は?

 やはり、パント義肢館ですか?」


 ふと、ミエルのかおあたまかんだ。

 何故なぜか、チョコレート菓子がしほほいっぱいにめこんでまわ姿すがたわすれられず、いたみを忘れて、おもわらい。

 軍人ぐんじんよりも良質りょうしつなチョコレートをべていたのに。

 私が手作てづくりしたパイが美味おいしい、美味しいと感激かんげきしていた。

 戦後復こう見据みすえてのおしのさつ

 そして、国政こくせい拠点きょてんの王宮がつぶれた場合ばあいの、「代替だいが」を最終さいしゅう検討けんとうしていた。

 あのころは、戦してでも、ちを取りに行くはずだった。


「……いに行くか……」


 あの職人見習みならいに、会いに行こう。

「この義眼は、パント義肢館に無理を言って、作らせたうちの一つだった。

 私は身分みぶんかくして、作ったのがいけなかった。王宮の結界けっかい干渉かんしょうされ、王族の魔力がこもった扇子で叩かれた。

 悪意がこもった、他者を傷つける意思があった。

 義眼に負荷を与えてしまった、私のミスだ」


 フラ王女の報復を警戒した王宮警察は、王族以外いがいの宰相や大臣だいじん精鋭せいえい護衛ごえいをつけてくれている。

 あいにく、三交代制さんこうたいせいでも、キツイだろう。

 なにせ、私は毎日まいにち、一、時間の仮眠かみんだけで眠気ねむけしている。

 そういう睡眠すいみん短縮たんしゅく魔術は有事ゆうじ便利べんりだった。

 へい時でも、使つかうべきときは使わなくてはならない。

 義眼と睡眠短縮魔術の相性あいしょうは最あくなのだろうが。

 てなど、いられない。

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