3 それって、地下遺産課の仕事?(後編)

 ファミーユがくなってから、りょうしずかだ。

 だれろう無駄むだばなしをしないから、誰も大人おとなおこられない。


 真夜まよなか

 就寝しゅうしん時間じかんぎているけれど。

 わたしはパジャマのまま、寮をした。

 靴音くつおとらないように、裸足はだしで、寮のそとにでる。

 いしだたみには泥汚どろよごれが無く、ほとんどあしうらを汚さずに、水色みずいろとびらえて。

 砂糖さとう銀行ぎんこうシアンてんへとはいれた。



 行いんのほとんどはいない。

 かん盗聴とうちょう魔術まじゅつ遺産いさん監視かんし体制たいせいは、屋根うあね裏のようなせま部屋へやでやっているのだろう。屋根からおとがしている。


 暗視室は、からっぽだった。

 かった。


脱走だっそうか?」


 クレート・トレモンテ暗視室ちょうかべすみっていた。

 室長づくえにいてくれれば、かったのに。

 わたしは静かに黙礼もくれいだけをする。

なにか、あるのなら、発言はつげんしたまえ」


「こちらを使つかわせて、いただきたいんです」

「ヴィーニュ少年しょうねんへい安全あんぜんまもられている。

 すこしのまんだ。

 そうすれば、絶対ぜったいくにかえれる。

 わざわざ。ばつけるような行動こうどうつつしみなさい」


そうけっこんか?」

「いいえ。

 一刻いっこくはやく。

 間がありません」


 わたしは暗視室長がえやすいように、はこなかをしっかり見せた。

「これをあいするひととどけたいのです」


がん

 きみは義眼もつくれるのか?

 ゆういちダースずつ?」


わたしめいでは……無理むりか」

完成品かんせいひんわたまえに、この国に連行れんこうされました。

 転移てんい魔術なら、わたしの身体からだは無理でも、ユニコーンのつのくらいは簡単かんたんでした。

 でも、『なんらかの魔術を使った』のがバレて、しょくとお風呂ふろきになって。

 使われていない井戸いど一晩ひとばんじこめられました」


「結婚を退たいしなくていのかね?

 てき兵だったおとこきずつけられて、君はへい気か?

 少年兵のほう活動かつどうまっとう出来るか?」


「彼の目が見えてさえいれば、わたしはしあわせです。

 わたしの義眼はしょうがい、彼のおやくてますから」


「……」

「室長がにっちゅう姿すがたをお見せにならなかったのは。

 さいまで、ねばづよく、偽装結婚計画けいかくめようとじんりょくされていたのでしょう」



 わたしはえいしょう魔術を一瞬いっしゅんだけ使う。

 盗聴魔術機器きき雑音ざつおんや盗聴妨害ぼうがいにならないように。

 そして、機器が感しないように。

 機器がしょうしないように。

 遮断しゃだん魔術も並行へいこうさせる。



「わたしはあし専門せんもんで、義眼は本当ほんとうほねれました。

 でも。

 わたしは彼の目にいろもどしたかったんです」

 わたしの手の中にあったくろい箱はゆっくりとえていく。

 室長は何かとなえたけれど、めることはしない。

 わたしのすべきことをえたのだから。


「色?

 どういうことだ?

 君はなにを言っている?

 魔術をこめた義眼は、力が回復かいふくする。

 しかし、可視化かしかだけだ。

 色を再現さいげん出来無い。

 色を認識にんしきさせるなんて、義眼使用しようしゃには無理だ」


「義製作せいさくにはウシを使います。

 んだ牛の一日いちにちかけて、実験じっけんをしました。

 でも、彼のぶんらず、ぜいじゃくな義眼しかつくれませんでした」



「まさか、新聞しんぶんの……」



「『国際こくさい問題もんだい』と叫ばれますか?

 もう、おそいんです。

 クレート・トレモンテ暗視室長」

「何か?」

「結婚の写真しゃしん現像げんぞう出来たら、彼に届けてくださいませんか?

 きっと、そのへんにヴィーニュの密使みっしがいるはずです」

「地下遺産課の仕事は、これからも続きます。

 わたしには、無理です。

 知られたくありません。

 でも、いずれ、知られます。

 でも、貴方なら、すこしでもマシな写真を届けてくださいますでしょう?」



 おおきな雨粒あまつぶが屋根にたる、ひどおと

 バン。

 バン。

 ババババババババババ。

 よわまっていたはずの雨が、また一気いっきつよまる。

 土砂どしゃりの雨がる。


 トレモンテ室長がかさをさして、わたしを寮までおくってくれる。

「まあ、脱走なんて!」

「いや。

 この子は明日あす花嫁はなよめになる。

 平和へいわ時代じだいってくれないからこそ、私には花嫁とはなすべきことがあった。

 おやすみ、シロップ」

「はい、おやすみなさい。

 トレモンテ室長」

 寮の職員しょくいん出迎でむかえられたけど。

 怒られることは無かった。

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