3 それって、地下遺産課の仕事?(中編)

 かるわった新聞しんぶんもとあったテーブルのうえもどしておく。


戦後せんごも、諜報ちょうほう活動かつどう思想しそう弾圧だんあつ健在けんざいだな」

しゅうちょく後は復興ふっこう以外いがい出来できませんよ。

 このくにも、ほか同盟国どうめいこくも、りょくはありません。

 それでも、単発たんぱつ動乱どうらんこせます」

るいともぶ。

 だから、危険きけん思想がちからたないように、監視かんししているんですね?」

 もと敵国てきこくどもがくちはさむことじゃいが……。


「国のそとで戦そう出来できちゃうんだ。国のなかでも、戦争をやろうとおもえば出来ちゃう。

 世界で一番いちばんひどいことが戦争だ。

 だから、戦争を経験けいけんしてしまうとね。

 ほかの『酷いこと』はこれから『まよいなく』出来てしまう。

 だから、監視しなければ、平和へいわ治安ちあん維持いじ出来ない」

 ポモドーロ補佐ほさかんはニヤリとわらってせて、両手りょうて指先ゆびさきをバラバラにうごかした。

 げては、のばして。

 折り曲げては、のばして。

 はいカフェを占拠せんきょしている連中れんちゅうを「つかまえるんだよ」とっているみたいな、かんじだ。

 いや、かれを「まだおよがせておく」のかな……。



「それで、我々われわれなんようだ?」

 ソーレは「つぎだい」をみずか提供ていきょうした。

 そう、わたしたちはばれて来た。

 だから、あん室側しつがわに用が無ければ、退散たいさんしたい。


とう銀行ぎんこうは、戦争こんによる夫婦ふうふ共同きょうどうこう凍結とうけつ分割ぶんかつおおいそがしです。

 戦争離婚は、戦後も戦争関連かんれん離婚として、戦争離婚とおなじようにあつかわれます」


 きたる戦しょうねんなかった。

 どこの国もおなじだ。

 ヴィーニュ王国おうこくの銀行にパント義肢ぎしかんのお使つかいで出入でいりしていたこともあった。

 でも、かいにあった、「夫婦共同口座のてい積立つみたてポスター」もいつのにか無くなっていた。

 ここの砂糖銀行も、夫婦共同口座の開せつは、しょうひんとして取引とりひきていしていたはずじゃ……。

 戦争離婚がえて、いろいろあった。

 わざわざ、トラブルをかかえやすい、リスクのある商品はなおしているだろうに。

 何故なぜいま、そんなだいを?


 単独たんどくの「口座開設目的もくてき」のおおくが、養育よういく・子どものがく費。

 離婚時のしゃりょうりのため。

 戦争関連のきゅうきん受け取りも、はじまっている。


「離婚のはなしを何故、する?

 わたしこんだぞ」




「いいえ。

 シルヴァーノ・ソーレ。

 本日ほんじつをもって、貴方あなたしん婚ですよ。

 おめでとうございます。

 夫婦共同口座はこちらでどうで開設みです」




「新婚?」

 ソーレはキョトンとしたかおで、かいいついていない。

「ヴィーニュしょうねんへいシロップと、貴方はけっ婚する。

 夫婦共同口座は、諜報・工作こうさく活動費として使ってください」


「それ、地下ちかさんごとか?」


 ソーレはあきれたまま、わたしを見ろした。

 暗視室の行員こういんたちも、わたしを見つめている。

 いや感がする。


「シロップ。

 きみは『戦さい遺児いじ養女ようじょになった』設定せってい

 ソーレは、『じょうかん遺言ゆいごんしたがって、上官の遺児を花嫁はなよめにする』設定。

 どう思う?

 最高さいこうでしょ」


旦那様シニョール

 貴方は、父親ちちおやにしてはわかぎますし。結婚あいにしては年上としうえ過ぎます」

「だが、シロップはこばまない!

 そこが『嫌悪けんあくかい感たっぷりのつきのシルヴァーノ・ソーレ』とはちがうね。

 かった、良かった」

 ポモドーロ補佐官は一人ひとり拍手はくしゅ喝采かっさいたのしんでいる。


「まあ、動物どうぶつらいの義肢づくりばかりで、人間にんげんでるのも見つめるのも、ひさしいですね。

 末永すえながく、よろしくおねがいします」

 そう。

 わたしはげられない。

 だから、あまんじて、そう結婚計画けいかくじゅうするしかない。



「プロポーズしてくださるんですか?

 べつかまいませんよ」

まえは花嫁にあこがれたことは無いのか!」

 ソーレに、急に怒鳴られた。

 なんと、おはなばたけだろう。

 このひとは、しあわせな国で幸せに戦争にいそしんでいた、ということだ。




「ヴィーニュでは。

 わたしたちは学校がっこうきょうしょひらまえに。やっきょくれてかれる、じょじょうきゅうせいを見ました。

 年頃としごろになると、毒薬どくやくをもらいに行くんです。

 てき兵からはずかしめを受けるまえに、んではいしろとおしえられました。

 無事ぶじ、結婚出来ても、おっとは戦死です。

 花嫁にあこがれるだなんて、こころびょうですよ」



 いっしゅんおとこの手がまった。

 気まずそうにうごいているのは女せい行員だ。


おとこの子には、ちょうしょるいが来ないように、おんなの子の前を名づけて。女の子の服装ふくそうをさせて。

 そういうのがバレた親が憲兵から懲罰を受けていました。

 女の子はまれても、とどしたがらないはは親がおおかったそうです。

 だから、学校にかよわずにてい学習がkすふうする子が多かったですね」


 わたしはこうつづけた。

「少年兵の選抜せんばつでも、提案ていあんがありましたが。

 あくまでも、かい平和です。

 クレメン統領とうりょう国に『りょう品』をしつけるのは、よろしくないと。

 ぐんの良しきある方々が、りすぐりました。

 おかげで、ヴィーニュ王国のだいは、『まあまあ不良品』と『とっても不良品』ばかりが国内こくないのこっています。

 教育きょういくかく問題もんだいと直めん

 わたしたちは、『ゆう良品』ですから。

 学校でつくえかって、勉強べんきょうするより。

 ちょう体験たいけんは出来ますね。

『偽装結婚』とか」

 また、拍手喝采をたいしていたのだけれど。

 クレメント統領国民こくみんだれ一人、笑わなかった。

 そう。

 かれ等がかんがえたわけでは無いのだ。

 これは、より上層じょうそう、あるいは、さらに上からのあつりょく


 見せしめに、わたしをるしげたいんだろう。

 ヴィーニュ少年兵をころすために、解体かいたいしょじっ習教ざい魔術まじゅつ遺産をまぎれこませた馬鹿ばかがいたから、か。




かったですね。

 花嫁が無知くちでは無くて。

 あらためて、おめでとうございます。

 シルヴァーノ・ソーレ」




 ポモドーロ補佐官はつくがおきつらせて、わたしたちを暗視室からい出した。

「さあ、明日あすは、銀行のそとで、新婚さんらしいことをして来てください!」

「それって、地下遺産課の仕事ですか?」

「シロップ、ずかしがらないで。

 ほら、ソーレ。

 可愛かわいらしい女性のエスコート、頑張がんばってください」


「シロップ、諜報活動の外出がいしゅつだから。

 ぞく校の制服せいふくぎなさい」

「脱ぎます。脱ぎますから。

 いま、ここではだんとして、脱ぎません。

 外出任務にんむ明日あしたでしょう」

「明日にす気か?

 さっさと、ちょうしゃって、結婚の届けませるぞ!」

「ソーレ、自棄じきになってません?」

 わたしはソーレの顔を見上げようとしたけれど、りょう手で顔をおおっていて、どんなひょうじょうかはめなかった。


 そこへセラフちょういそあしでやって来た。

 くやしそうなかお

 そして、あわれみもこもっている。

「明日のぜん、市庁舎の婚いん手続きの予約を取っている。

 簡単かんたん宣誓せんせいだけだ。

 午後からは、結婚の記念写真しゃしんを写真かん撮影さつえい

 ソーレ、こんさけひかえて、明日のあさまでに無精ぶしょうひげれよ。

 花嫁にはじをかかせるな!」


 わたしへの視せんは、もっと「かわいそうなものを見る目」になっていた。

「シロップ。

 ニキビがひとつでも増えないように、お菓子かしきんだ。

 ……まだ、ニキビは一つも無いのか。

 まあ、とにかく夜更よふかしはしては駄目だめだ」

 地下遺産課のセラフ課長に、わたしはきしめられた。


「結婚おめでとう、シロップ」


 偽装結婚だけれど。

 ただ単に、書類しょるいぞうではませないようだ。

 きちんとした婚姻手続きをむ。

 なんだ、それ。

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