2 終戦後の清算(中編)

 レポートをさなければ、ヴィーニュ少年兵しょうねんへいばされていた。

 さらに。あの教官きょうかん実行犯じっこうはんではなく、あの教官の元夫もとおっとが「教官を犯人はんにん仕立したげ」て、破滅はめつさせるためだけに……。

 私怨しえんで「儀礼ぎれい捕虜ほりょ排斥はいせき運動うんどう」のテロにせかけるとは。

 戦争せんそうわったからといっても。ひとこころは、まだ戦争のなかのこされたまま。

 やりたい放題ほうだいやっても、「戦争が、戦争が」とわけするだけだ。

 きこまれた少年兵はふたい。


「そんなにいえかえりたいのなら、強制きょうせい送還そうかんしてやろう。

 ミエル・オス!」

 わたしへの尋問じんもん立候補りっこうほした馬鹿ばかは、シアン支店してん暗視あんししつ所属しょぞくのオノフリオ・ラピーノ補佐官ほさかん

 わたしを尋問しても時間じかん無駄むだだというのに。

 はりきって、はなあなふくらませている。


 も無き収容所しゅうようじょくらべると、ここはまだ「息苦いきぐるしさ」が無い。

 自分じぶん魔力まりょくながれも、他人たにんのも、ぶつかりうことも無い。

 ということは、密閉みっぺいせいがかなりひくい。

 附属校ふぞくこう水色みずいろとびらへだてられているだけ。それほど、重要じゅうよう施設しせつでは無かったし、これからもそうだろう。

 あの収容所にしみついた禍々まがまがしさに比べたら、楽園らくえんだ。


入国にゅうこくさい都合つごう名前なまえうばっておいて。

 強制送還の是非ぜひう尋問の際に、また、都合良く識別名しきべつめいうばうのですか?」

屁理屈へりくつで尋問を長引ながびかせるな。

 少年兵、良くけ。

 戦後せんご処理しょりのために、子どもを犠牲ぎせいにするなんて人道じんどうはんしている。

 しかし、そうでもしなければ、大人おとなはまた戦争せんそうはじめてしまう」

「そうですね。

 子どもがくるしむ姿すがたほど、悲劇ひげきはありません」

「わかっているなら、何故なぜ

しろやま】を名も無き収容所ない暴走ぼうそうさせた?」

「子どもがいつくるしむか、いつかなしむか、いつ悲劇をえんじるか。

 そういうことは大人おとなにはめられませんよ。

 わたしはまだ、子どもですから。

 それとも」




貴方あなたも、義肢ぎし必要ひつようですか?」



 尋問じんもん担当者たんとうしゃの馬鹿はキョトンとしたかおをしている。

 わたしの周囲しゅういでガミガミさわいでいたのは。義肢に不安ふあんかかえていた義肢使用しよう予定よてい者か。義肢使用をれられない、その家族かぞくか。


「ご存知ぞんじでしょうけれど。

【白の山】は生物せいぶつほねくすぶらせます。

 たとえば……ユニコーンのつのとか。

 例えば……人間にんげん大腿骨だいたいこつとか。

 丈夫じょうぶふとい骨ほどむしばまれるのを実験じっけんました」


 トン。

 馬鹿のうしろにひかえていた上司じょうしが馬鹿のかた一叩ひとたたきして、馬鹿をかべたたたせた。


「はじめまして。

 クレート・トレモンテ暗視あんし室長しつちょうだ。

 きみが義肢をつくれると、聞いているよ」

「よろしいのですか?

 わたしも名も無き収容所で【白の山】に一度いちどは蝕まれました。

 わたしの指先ゆびさきは【白の山】をってしまいました。

 燻ぶる義肢がりようでしたら」

結構けっこう!」

 馬鹿は、かれの上司とわたしの雑談ざつだんってはいったが。トレモンテ暗視室長の一睨ひとにらみで、大人おとなしくなる。

 しかし、我慢がまんならなかったのか、また怒鳴どなり出す。

秘密ひみつ軍人ぐんじん二名。しょ長とふく所長だ。

 そして、チャンベッラ教官きょうかん

 この三名はもちろん、救出きゅうしゅつ作戦さくせん従事じゅうじしたりく関係かんけい者。

 君一人のせいで、彼うしなうなど!」

永遠えいえんにはつづけません。

 わたしの【白の山】は完全かんぜん鎮火ちんかしました。

 燃えくされた山にも、あめるでしょう。

 雨が降るまで、おちください」


「こちらは、妊娠中にんしんちゅう職員しょくいん被害ひがいきこまれたと把握はあくしている。

 君は心がいたまないのか!

 君の教官だって、教官の元夫の副所長だって、いまくるしんでいるんだ!」

「ふふふふーん。

 それは事実じじつはんしています。

 勝手かって不倫ふりんをして、勝手に離婚りこんして、勝手にさい婚して、勝手に元てき国の子どもをしいたげて、勝手に【白の山】にのまれた名も無き収容所。

 勝手に救出作戦を立案りつあん実行じっこう撤退てったいした陸軍特殊とくしゅ部隊ぶたい

 そして、その

 おしまい。

 どこに、わたしがなにか出来るすきがありました?」

「無いにひとしい。

 しかし、君がユニコーンの角をちこまなければ!」

「【白の山】に汚染おせんされたユニコーンのぬいぐるみです。

 没収ぼっしゅうされたあとに、汚染が判明はんめいしました。

 どうやら、ヴィーニュおう国へ、返還へんかんされたみたいですね」











「それで。

 この国に無い物をどうしろって?おぼっちゃん」











 わたしは馬鹿を相手あいてにするのをやめることにした。

 はなしつうじそうなのは、トレモンテ暗視室長だろう。

偶然ぐうぜんかさなると、ひつ然のようにおもえてしまうでしょう。

 見誤みあやまれば、軍人では無くなりますよ

 たんなる市民しみんの『敵国感情かんじょう』とわりません」

「三人は名も無き収容所にとどまることは出来ない。

 所長の判断はんだんで。

 いもうと夫妻ふさいと、妹の旦那だんなの元つまはシアン支店地下ちか遺産いさん移送いそうされた。

 だが、せっかくヴィーニュの義肢職人しょくにんがいらっしゃる。

 彼等のうち、一人でもたすけられないだろうか?」

 トレモンテ暗視室長はシアン支店の地下かいへと、わたしをれてく。

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