2 終戦後の清算(後編)

 豪華ごうか絢爛けんらんというよりは、重厚感じゅうこうかんのある自動じどう昇降機しょうこうきりると。

 硝子がらすひつぎおさめられた患者かんじゃ廊下ろうかおくへとはこばれてった。

 透明とうめいひつぎなかで、厳重げんじゅう封印ふういんされたりょう下肢かしには黒黒くろぐろとした刻印こくいんほどこされていた。

 おとこだ。

元妻もとつま破滅はめつさせるために、所長しょちょうが、安全あんぜんな【かみなりはな】と改造かいぞうしたものをすりえをした。

 所長はみとめました。

 どうか、すく手立てだてを!」

 棺の中でわめいているが、なんとなくっていることはわかった。

 おく部屋へやでは、ならべられた棺はいくつもあった。

 はいたされた棺はもう灰以外いがいなに見当みあたらなかった。

 かおふくれた下腹部かふくぶからおんなだと判断はんだんした棺も、棺の下半分したはんぶんは灰がもっている。


 トレモンテ暗視あんし室長しつちょうおなじ、へちまえり制服せいふく人々ひとびと彼等かれら懸命けんめいに棺にかっていかけている。だが、もう所長とふく所長の棺しか反応はんのうかえって来ない。

「所長。貴方あなた指示しじで、副所長が入国時にゅうこくじのヴィーニュ少年兵しょうねんへいへの人道的じんどうてき尋問じんもん長時間ちょうじかんおこないました。戦争せんそう犯罪はんざいみとめますか?」

「はい!もちろんです!

 認めれば、極刑きょっけいまぬがれますよね?」

「はい。極刑は免れるのはもちろんです。

 所長。貴方は自分じぶんのミスを認めました。

 それにより、貴方の軍歴ぐんれきいま一度いちど調査ちょうさ対象たいしょうになります。

 ヴィーニュ王国おうこくぐん軍の捕虜ほりょやヴィーニュ王国せき駐在員ちゅうざいいんの尋問。

 今までの名も無き収容所しゅうようじょないでの尋問をすべて、適切てきせつだったか確認かくにんなおさなくてはなりません。

 ヴィーニュ少年兵の尋問そのものは戦争犯罪ではありませんが。非人道的ぎましたね。

 戦争ちゅうの戦争犯罪もわかり次第しだい、……」

 灰が積もりった棺からあっというに灰が焼失しょうしつしてしまう。

 その途端とたん、また棺の中にいた人がワーワーわめく。

「所長。名も無き収容所の所長として出廷しゅっていした非公開こうかい軍法ぐんぽう裁判さいばんのやりなおしもふくまれます。

 その棺に入っている以上いじょうねませんよ」

地下ちか遺産課いさんかです」と棺に話しかけながら、内状態じょうたい管理かんりしたり、今後こんごについて地下遺産課同士どうしはないをしたりしている。


 トレモンテ暗視室長はわたしのまえこしをかがめ、両膝りょうひざをついて、たち膝の恰好かっこうで、こうげた。

「クレメン統領国とうりょうこくは『終戦後しゅうせんご清算せいさん』にけた。

 これでいかな、ヴィーニュ少年兵しょうねんへい

「ふふふふーん。

 何のことでしょう?」


 ラピーノ補佐官ほさかんはまだ、この状況じょうきょうを理解出来ていないらしい。

我々われわれち度だよ。

 名も無き収容所をのこしたまま、戦争を続けた。そして、戦争をわらせたあとも、あの収容所を解体かいたいしなかった。

 我々が馬鹿ばかたということだ」


 ラピーノ補佐官はブルブルふるえながら、硝子の棺の収容室をび出して、廊下ろうかすみ嘔吐おうとする。

「……その子どもは何ですか?」

「シロップ。

 こたえられるか?」

「はい。

 わたしは義肢ぎし使用者しようしゃくるしみをやわらげるために、義肢開発かいはつをしました。

 使用者の苦しみを理解するために、苦しみを再現さいげんし、観察かんさつしました。

 貴方たちがやった空襲くうしゅうなんて、のぞひまもありませんでしたね」


「ヴィーニュ陸軍りくぐんぞく義肢職人しょくにんミエル・オス。

 戦争実験じっけんりつかれた全知ぜんち悪魔あくまであらせられる」


すべてではありません。

 まん、くらいでしょうか」

 わたしはラピーノ補佐官のよごれた口元くちもとをハンカチでぬぐってやった。本当ほんとうなら、もう嘔吐しないように、のどめ物をしたいくらいだったけれど。

 クレメン統領国秘密ひみつ軍までちたくは無かったので、そんなことはしなかった。

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