第2話 思い出

 この海から駅まで少し歩かなくてはいけない。必然的に川西こいつと二人きりな訳だが...。この状況結構気まずいなとは思う。


「ねね、春樹はさ。なんで私がいる高校を選んだの?」

真剣な顔をしていきなり聞いてきたので驚いた。

「うーん、1番は成績だな。偏差値で高校選んだというのが理由でもう一つは...」

「もう一つは?」

「家から近くてそれなりの進学校だったからだ」

よくいう家から近かったからというのはほんとである。そもそも川西がこの高校に行っていることすら知らなかったのだ。


「なーんだ、つまんないの」

「何の面白みもなくて悪かったな」

「てっきり、私のことが忘れられなく追いかけてきた的な感じかと思ったのに」

「さすがに未練ありすぎだろ」

俺たちが別れてから1年以上は経っている。それで引きずっていたとしたら、かなりのストーカーの素質があるのではないかと思ってしまう。


「さっきからさ、春樹はなんで昔みたいに名前で呼んでくれないの?」

「一様先輩だからな」

「一様って、立派な先輩ですが?ってそんな話をしたいんじゃなくて、なんで距離を取りたがるの?」

「そりゃ、もう普通の先輩後輩の仲だし?過去のことはもうなかったことにしようかなーって」

曖昧にして濁すのは悪いとは思うが、かなり酷い返しをしているのは自覚している川西が求めている答えを知っていても口には出せない。


「はぁ~、そういうことじゃないんだけどな。ま、大人だからこれ以上は聞くのはやめてあげましょう」

「一個しか変わんないだろ」

「1年分の人生経験が違いますので」

なんかこいつどや顔してるぞ。久しぶりに話したのに、空いていた時間を埋めるように会話が楽しかった。



 駅に着いても結局同じ方向に帰るのでずっと一緒だ。まさか入学して早々こんなことになるなんてな。


最寄りの駅から、住宅街をなつかしい話をしながら歩いていると分かれ道に来た。

「じゃ、わたしこっちだから」

「おう。じゃーな」

「またね」


にこにこと彼女は笑顔を見せながらそう言って、帰っていった。





「またね、か」

もう会わないと思っていたのに、これから話すこともないんだろうと思っていたのに彼女の方から話しかけてきたことですべてが変わった。


家に帰ってからもしばらく川西との会話を思い出していた。


思い出せば、中学の時も彼女から話しかけてきたことがきっかけだった。川西とは、委員会が一緒で担当する仕事のペアだった。中学入りたてで先輩が怖く感じた俺は、自分からは積極的には話しには行かなかった。

 しばらくして、さすがに彼女も限界が来たのだろう。

「宮野くんさ、放課後時間ある?」

この時は委員会のことだろうと思い、二つ返事で答えた。




あの時から川西は少々強引な性格だったのかもしれない。




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