何も知らない男
「おお、やば……」
口から思わず声が漏れる。生暖かい舌で、陰のうがゆっくりと舐め上げられていく。舌がさらに下がっていき、今度は舌先が肛門をつつきはじめた。アナル攻めはしばらく続き、陰茎では味わえないむず痒い官能にしばし身を委ねた。
キャバ嬢の美穂は、こちらの要求に何でも応えてくれた。それも恐いくらいに——。
淫乱というわけではない。セックスが大好きというタイプでもない。ただ単に、相手を喜ばそうという精神が強いのだ。看護師に多く見られるタイプだ。彼女は看護師と同様に、他人の排泄物の処理もいとわない、博愛精神に充ちているのだ。
彼女のアナル攻めは執拗に続いた。内臓がむず痒くなってくる。陰茎はパンパンに膨れ上がっている。美穂がアナルを舐めながら右手で陰茎をしごいてくる。ついに耐えきれなくなり、精液をほとばしらせた。右手の動きが緩慢になり、舌がアナルから離れていく。
「たくさん出たね」
美穂が、隠毛に垂れた精液を指でつまんで言った。嬉しそうな顔をしている。エロティックな微笑みに、陰茎が再び硬くなった。
「え、また大っきくなった。出したばっかりなのに」
美穂が隆起したモノを見て驚いている。
目を丸くして驚いている小さな顔を見て、佐藤は思わず彼女の頭をつかんでいた。つかんだ頭を自分のモノに寄せて咥えさせる。彼女の頭を上下させていると、彼女の口の間から大量の
「ゴムつけてくれ」
佐藤がそう言うと、美穂は慣れた手つきでコンドームを被せてきた。起き上がると、彼女を後ろ向きにさせて、背後から陰茎をねじ込む。すぐに官能の声が上がった。二人の体の相性は抜群だった。腰を一振りするたびに、美穂が全身で感じているのが伝わってくる。
美穂は胸もデカかったが、同じくらい尻もデカい。豪快に腰を打ちつけながら、白くて柔らかい大きな尻を、手のひらでパチンと叩く。美穂が悲鳴に近い声を上げた。気を良くしてもう一度叩く。彼女が再び声を上げて身をよじる。そのとき中がキュッと強く締まり、堪らず射精した。
佐藤は満足しながら彼女の体に覆いかぶさって言った。
「ほんとお前、いい身体してるな」
「ありがと……。あたし、佐藤さんのこと、本当に好きになっちゃった……」
美穂がうっとりした顔でそう言ってきた。
気持ちよく横になっていると、美穂がコンドームを抜き取り、ティッシュを使って精液や涎で汚れた股間まわりをていねいに拭いてくれた。
「シャワー浴びてくるね」
美穂の背中を見送ってから、佐藤は煙草に火をつけた。
煙草を吸い終えたところで美穂が戻ってきた。
美穂が裸のままベッドに上がって寄り添ってくる。
「今日も本当に気持ちよかった。佐藤さんも、気持ちよくなってくれた」
「ああ」
「ところで佐藤さん、いい弁護士さん知らない?」
「ん、何でだ?」
佐藤は少し怪訝に思って聞き返す。
「実はね、お店の子がストーカーに遭ってて、弁護士に相談したいって言ってるの」
「そんなの、警察に相談すればいいだろうが」
「あたしもそう言ったんだけど、怖いんだって、警察は」
「そうか。なら、おれが世話になってる弁護士を紹介してやってもいいぜ」
「ほんとに? ありがとう、佐藤さん」
美穂は嬉しそうに抱きついてきた。
煙草に火をつけたところで、美穂が心配そうに聞いてきた。
「でも佐藤さん、いっつもこんないいホテルじゃ、お金大変でしょ?」
「気にすんな。前にも言ったろ? おれにはいい金づるがいるんだよ」
「金づるって、どんな金づるなの?」
「まあ具体的なことは言えないが、いろいろ協力してやってる見返りに、毎月まとまった金をもらってるんだ」
「へえ、そうなんだぁ。いいなぁ。あたしもそんな人、欲しいなぁ」
佐藤はここで妙案を思いつく。
「そうだ美穂。もし、おれの仕事を手伝ってくれるなら、いくらか小遣いを渡してやってもいいぞ」
「仕事って、どんな?」
「その、おれの金づるなんだが、少し信用のできないやつでな。そこで美穂には、そいつに近づいて、動向を見張っててほしいんだ」
美穂は驚いたように聞いてきた。
「あたしに、スパイの真似事をしろっていうの?」
「スパイってほどのことじゃない。ただ信頼できる人間を、そいつの近くに置いときたいだけなんだ。いざというときのためにな」
「じゃ、あたしは、佐藤さんにとって信頼できる人間なんだね」
「だろ?」
「ええ、そうだと思う。けどどうやって、その人に近づけばいいの?」
「そいつは役者をやっててな、定期的に舞台をやってるから、まずはそいつの舞台に客として参加するとこからスタートだな」
佐藤はスマホを手にしてロックを解除する。それから桜井拓海から送られてきた過去のLINEのメッセージを探し出し、彼が所属している劇団のホームページに辿り着く。
「どうやら、次の舞台は九月だな。月千円のファンクラブに入ってると、舞台の打ち上げに参加することができるんだ——。で、こいつがおれの金づるだ。いい男だろ?」
「あ、ほんとだ。イケメンだね」
「だろ? イケメンっていうのがポイントでな。おれがこいつと手を組んでるのも、顔のよさを買ってのことなんだ」
「ふーん」
美穂はあまり写真の男に関心がないように見えた。好みのタイプではないのかもしれない。
「でも佐藤さん。あたし、舞台とかまったく興味ないから、観にいっても途中で寝ちゃうかも」
「なら無理して行かなくてもいい。おれも舞台なんて興味ないからな。だけど一度だけ、そいつの舞台を観にいったことがあるんだ」
「へえ。で、どうだったの?」
「それがな、クソつまんない舞台を予想してたんだが、これが予想外に面白くてな。一時間半かそこらだったんだが、最後まで退屈せずに観れた。正直、悪くなかった」
「へえ」
「まあ、それはいいとして、お前に頼めそうなことがあったら、そのときは協力してくれよな」
「うん、いいよ。でもあたし馬鹿だから、あんまりむずかしいのは無理かも。あたしにもできるような、簡単なことだったら、いくらでも協力するよ」
「なら、さっそくできることがある。おれを気持ちよくさせてくれ」
「え、大丈夫なの? もう三回も出してるのに」
美穂が目を丸くして言った。
「おれは絶倫なんだ。いくらでも出せるんだよ」
「それじゃ、どうしてほしい?」
美穂がこちらの乳首をいじりながら聞いてきた。
「そうだな。まずはおれの息子にたっぷり唾をつけて、お前のデカパイでしごいてくれるか」
「うん。いいよ」
* * *
「たっくん、やったよ。佐藤から、弁護士紹介してもらったよ」
美穂は嬉しそうに報告してきた。
拓海は結果に満足した。とはいえ、彼女が聞き出した弁護士が、佐藤が保険を託した弁護士と違う可能性もゼロではない。しかし、それでも前進した感じは得られた。
「よくやったな、美穂」
拓海が褒めると、電話越しからでも彼女が喜んでるのが伝わってきた。以心伝心というやつだろう。
「それにしても、思ってたより早く聞き出せたな」
「うん。あいつ、あたしのこと指名してくれるようになったから」
「そうか。それはよかった」
ここで美穂が小さく笑った。思い出し笑いのようだった。
「どうした?」
「あのね、たっくん聞いて。すごい面白いのよ。あいつね、たっくんのこと、スパイしろって言ってきたの」
「ん、どういうこと?」
「えっとね——」
美穂が詳細を語る。
話を聞き終えて、拓海は愉快な気持ちになった。
「ねえ、面白いでしょ? 自分がスパイされてるのに、たっくんをスパイしろだなんて、超ウケるんだけど」
「まさに、ブラックジョークって感じだな」
相手よりも、一枚も二枚も上手に思え気分がよかった。このまま美穂の力を借りて、手玉に取ってやりたかった。
「あ、そういえばあいつ、たっくんの舞台褒めてたよ」
「へえ。じゃあ、前に言われた言葉は、社交辞令じゃなかったんだな……。それはそれで、悪い気はしないけどな」
不思議と佐藤への嫌悪感が和らいでいく。人は単純な生き物だなと思う。
「あたしのこと知ってる人がいなければ、あいつの依頼を引き受けるフリもできたんだけどね……」
美穂は何度か劇団の打ち上げに参加していたため、古株の団員たちには顔を知られていた。
「たっくん、あたし、思ったんだけど……」
「何?」
「もしかするとあいつ、他の人に頼んで、スパイみたいなことさせてるかもしれないよ……。だから気をつけてね」
美穂の言う通りだと思った。こちらが美穂を使って探りを入れているように、向こうも同じことをしている可能性は高い。彼女に騙されている佐藤を笑ったが、明日は我が身かもしれないのだ。今までは佐藤のことを共犯者という認識でいたが、これからは、〝敵〟という認識で捉える必要があるかもしれない。
「美穂。当初の目的は達成できたけど、もうしばらく店にいてもらってもいいか? できれば佐藤の動向を今後も把握しておきたい」
すぐに明るい声で返事が返ってきた。
「大丈夫だよ。あたしもそのほうがいいと思ってたの。あたしが近くで見張ってたほうがいいってね」
「助かるよ。だけど、無理はしないでほしい」
「無理なんてしてないよ。それより、たっくんのほうこそ、あまり無茶はしないでね」
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