閑話 おまけというか補足というか


 青年は首を傾げて少年に尋ねた。

「……結局『魔術』ってなんなの?」



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「……さっき説明したような気がするんだけど」

「あっ、いや……僕、いまいちその事件の全貌を把握しきれてなくて。精神に影響を及ぼす魔術がどうたらって言ってたけど、具体的にどういうものなのかさっぱり」

 足元に転がる細い枝々を手持ち無沙汰に弄びながら呟くデンテの言葉に、なるほど、とセシルは答えた。魔法学の欠片も勉強したことがなかったらしい青年には、少々難解な話であったようだ。

 合点したセシルは、デンテにも分かりやすいように説明を考え始めた。頭の中でそれぞれ紐付けられ、整頓された知識を引っ張り出し、並べ替える。

「えっと、魔術……もとい魔法には、使うために必要な材料が3つある。魔力と、魔法陣と、魔法使いだ。魔力というエネルギーで魔法陣という機械を動かし、それを魔法使いがコントロールする……っていうのが魔法の大まかな発動の仕方」

「魔力と魔方陣と魔法使い……」

 デンテが繰り返し言葉を口にする。セシルは頷いて、

「魔法陣の描いた場所や物が魔法の対象となるんだ。例えば地面に描けば砂を動かしたり、石を砕いたり。あとはそうだな……」

「見えないと思うけど、オレのこの服にも一応魔法陣が描いてある。この服も魔法がかかってる訳だ」

「で、肝心の魔術だけど――」

「魔術は魔法陣を描く対象が『人間』である魔法の総称だ。身体の機能向上といった単純なものから、それこそ呪いのような他人に害を与えるものまで、その種類の幅は広い」

「あ、誤解を招くかもしれないから言っておくけど、魔術は一般にも広く使われてる。主な使用用途は医療や戦争かな。まあ資格がないと使えないんだけど、そこまで魔術を使った事件っていうのも珍しくはない」

「だけど、この事件の異常性はその規模にある。魔法は、いちいち魔法陣を描いて、魔力を送り込んで発動させなきゃいけない。魔術もその制約から外れることは出来ないから、たとえ他人であろうと魔術をかけようと思えばまず魔法陣を一人ずつに描かなきゃならない」

「しかも何千、何万人分の魔術の魔力消費だ。王宮魔術師でもそんな魔力量のやつはそうそういないし、いたとしてもそれを何日も持続させるなんて無理」

「が、ある条件下だと、この大規模魔術は実現可能だ。大量の魔術師がそれぞれで魔術を発動させているか、魔道具――この場合は巨大な機械となる訳だが――を魔法で魔法陣に見立てて、魔力を多く含んだ魔石かなにかで魔力を送り込むか、だ。」

「前者は正直現実的じゃない。大がかりすぎる――というかそもそも魔術を扱える人間が何千人もいない。」

「と、なると、後者であることが推測できる。よって、その魔道具ないしは魔石を探し出して、魔術のかけられている根源から潰して解決しよう、というのがこの事件解決の目的、と一応してる」

 セシルは顔を上げ、青年の表情を伺い見て言った。

「分かったか?」


 デンテは遠い目をして言う。

「……雰囲気はね……」

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