25話 航気の独白

「――バカだな四逆。昔からバカだと思っていたけれど、こんな愚かな真似をするとは思っていなかった」

 茶有様から四逆を家に置いてこいと命じられ、途中までは従った。

 だが、そのまま家に送り届ける気はない。コイツは害になると判明してしまったから。

「お前もこの異界から生まれた原初の者。だからずっと見逃していたんだ。――お前が茶有様を傀儡に仕立て、この茶有様の異界を自分の意のままにしようと企んでいることをな」

 四逆はギクリと身動ぎした。

 そんな四逆を憐れに思う。


 耄碌して忘れてしまったのだろうか。最初はそんなことを思わなかったってことを。そして、そんなことをしても無意味なんだということを。

 憐れに思いつつも、自分の爪が長く鋭く伸びていく。

「……なぁ。俺たち原初の者は、茶有様の望むとおりに形づくられただろう? 忘れたのか? ……あぁ、そうだな。そうやって、忘れ去って、消えていく。もう何人も残っていない。そのことすらも忘れてしまったのか……。茶有様にとっては、我らは大した価値もない存在なのかもしれない。この異界と共に消えゆく朝露のようなものなのかもな……。それでも俺は、最初に生み出された者として、茶有様の望むとおりに生きていく」

 腕を大きく振りかぶった。

 四逆はキィキィとわめきながら逃げ出すが、鬼嫁に力の大半を奪われ、原初の姿になってしまった四逆が逃げ切れるわけがない。

「お前は――この異界の存亡を、俺よりも憂い、真剣に考えて忠言していたというのに」

 逃げていた四逆が止まった。

 俺のつぶやきを聞き取った四逆は、ゆっくりと振り返る。

 その顔は、穏やかに微笑んでいた。

 四逆は、もう逃げようとしなかった。

「さらばだ、四逆」

 爪が切り裂く。四逆は、霧散した。


「ごめんね、嫌な役をやらせちゃって」

 現れた人影の前で、俺は膝をつき頭を下げる。

「私がやると、過干渉でまずいことになるからさ。……君の今のつぶやきからすると、元は忠臣だったみたいだし、大いに利用させてもらおう。――正直、焦っていたとはいえ見事なまでに失敗したよ、本当にね!」

 陽気な口調ながらも内容は辛辣だ。俺は無言のまま頭を下げ続けた。

「完全なる手遅れにならないうちに破壊するから。君も、彼がいなくなるのは嫌だろう?」

 そう問われ。

「……だからこそ、あなたの計画に乗ることにしたのです。……一時、茶有様の命令に背いても」

 そのために殺されようとも。


 顔を上げて仰ぎ見れば、静かに微笑んでいた。……その顔は、冷たいながらも慈愛に満ちていた。

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