21話 ダメでした~

「……非常にタイミングが悪かったんですよね。今の私は幸か不幸か顕界の交友関係がすべて終わって新たに築こうとしている矢先だったもんで。もう少し前か後ならまた違ったんですけどねー」

 そう言うと、お義父さんは盛大にため息をついた。

「やだなぁ。もしかして私がさらったことになってない? 違うのに」

 いや、さらったじゃん。

 ……でもないか。私、出ていこうと思えば出ていけた気がする。今も。

 行く気がしないのよねぇ。なんか、こっちの方が居心地がいいからさ。


 お義父さんは繰り返し「とにかく、なんでもいいから未練のあるものを思い浮かべて! そして茶有も思い浮かべて!」言いながら、私と茶有の前に立ち、祝詞をあげた。

 未練……? スマホに未練があるよ。……って思ったけど、未練があったのは禁断症状の出た数日間だけだった。なけりゃないでどうにかなるな。しょっちゅう安中ちゃんとくっついて話してるし、何かしら学びがあるし。


 ……とか考えていたのがいけなかったのかもしれない。

 つながりませんでした。


 お義父さんは黙り込んじゃったよ。

 茶有が困った顔をしている。いや、私もしているかもしれない。

「あー……。ある程度お金を稼いだらさ、申し訳ないんだけどお義父さんの出入り口を使わせてもらってさ、茶有と顕界へ新婚旅行に行ってくるよ。そこで何かしら思い出を作ったら、顕界への道がつながるかもしれないじゃん? もう一回言うけど、今はタイミングが悪いんだよね。ここの環境に慣れて物珍しさが消えたらノスタルジーで帰りたくなるかもしれないから、長い目で見てよ」

 私が弁解すると、茶有もうなずいた。

「父上。俺の異界のことは俺が考える。父上はこれ以上、手を出さないでもらいたい」

 お義父さんはそれで浮上した。

「ま、確かにそうだね。茶有の異界のことだ。嫁に関しては私が振り回してしまったから申し訳なかったと思うけど」

 お義父さんが笑顔で茶有に言うと、茶有は首を横に振る。

「玉藻は早々に裏切られた。獰十朗だってさんざん揉めていた。なんの痛みもなく穏やかに過ごせて俺はよかったと思っている。……美衣も、そんなに悪くない」

 最後、とってつけたように言われたわよ。

「ありがと、私も茶有はそんなに悪くないわよ」

 見た目は満点、性格は五十点くらいまで挽回してきた。好き好き大好き!とかはないけど、このままうまくやっていけるんじゃないかと思い始めている。

「……そうだね。ただ、もう少し顕界への道をつなげるように努力して。このままだとホントにつながらないよ? 美衣ちゃんも、どうしてもダメなら私に言って。顕界へ返すよ。今のままじゃ、行方不明扱いになるからね」

 私はうなずいた。……確かにね。誰かが行方を捜したとしたら、そうなるね。

 とはいえ、心配してくれてる人は本当に思いつかない。

 行方不明にすらならないよ。誰もが、そのまま思い出すことはないでしょう。

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