20話 二度目の婚礼の儀

 茶有は箱入り息子なのね、と思った。

 父親に住み処と嫁を用意され、使用人や幼なじみたちに心配されながら引きこもっている。

 茶有の心配をしている輩から私という嫁を見ると、さんざん待たせたひどい嫁、ってことなのですが……。

「それにしても過保護すぎない? いい歳した茶有に何を心配しているんだろ、って思うよ。茶有から見たら私なんてまだ赤ちゃんレベルの歳じゃない。なのに、なんで私が齢経て誑かすのに熟知している鬼女みたいな扱いなのかなーっと」

 鬼女っていうか、鬼嫁って紹介されるけどな!

 私がそう言うと、安中ちゃんは曖昧な表情になった。

「…………皆さん、茶有様のことが心配なのです」

 と、これまた過保護発言をする。

 茶有は逆に肩をすくめている。

「確かに、心配されるようなことは何もないな。俺は、なるようにしかならないと時に身を委ねているだけだ。……確かに当初は臆病さから、自ら顕界の者とかかわらないようにしていた。俺には獰十朗のような寛容さを持ち合わせておらず、玉藻のような仕打ちをされたら許せる気はしなかった。顕界の者をすべて滅ぼすまで呪い続けるかもしれない、と思ったのだ。父は私を案じて嫁を連れてくると言ったが……。それも結局裏切られた。ならば、ここで皆と最後まで静かに過ごすのが良い」

 そう言った茶有を、案じるように安中ちゃんが見つめる。

「茶有様……」

 ……うーん。なんというか。

「すっごくいい感じに言ってるけど、単に怖いから引きこもっているだけという」

「俺の繊細な心を、大槌のような言葉で叩き壊すのはホントやめてくれ」

 茶有が情けない声で言った。


 安中ちゃんと「次はいつ行こうか」と話していたらお義父さんがやってきた。

 儀式を執り行う、ってことで。

 お義父さんにはちょいちょい「会いたい人はいないの?」とか「心配してくれてる人は?」とか訊かれる。

「特には……」と答えるとものすごくガッカリされるんだけど。茶有には呆れ返られるし。

「拉致監禁した人がなぜそんな心配をする?」

 って私が尋ねたら、困った顔で笑った。

「数日留まってもらうのと、ずっと行方不明になっているのと、同じだって思う?」

 そう切り返されると黙るしかない。

「美衣ちゃんの行方が分からなくなっていることを心配してくれてる人を思い浮かべて」

 と、言われた。

 …………今度は私が困った顔で笑った。


 いないんだよ。

 だから、突然の結婚にもうなずいた。

 もしもまだ会社に勤めていたら、さすがに無断欠勤が続けば誰かが連絡を取ろうとして、うまくいけば警察沙汰になったかもしれない。

 だけど、タイミングが良いのか悪いのか、会社は辞めてアパートは退去して、彼氏とは別れている。

 実家はもう十年以上帰っていないし、友人はいるけど結婚してからは旦那優先で会うのが厳しくなりここ数年はもっぱら年賀状のやりとりのみ、つい先日残っていた飲み友達も結婚して、独身は私のみとなってしまった。

 環境を変えて交友関係を新たに築こうと思った矢先の、この異界への嫁入りだからね~。

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