17話 獰十朗氏と二人っきり(意味深)

 食べ終わり、探索続行。お次のスポットは、異界の境目だよ!

 けっこう遠かったので、今日はもうこれ以上回れなそうにないわ。


 全員で海岸線を見つめた。

 ……最果ての海って感じ。これは……ちょっと怖い。

 正確には海岸線は見えず、薄い灰紫の霧がかかったぼんやりとした景色なのよ。

 あちらに行ったら帰ってこられない、そんな雰囲気。

 真冬の曇った日に訪れた北国の海より寂しい景色かも……とか思ってしまった。


 ……と、ふと見ると、横に立っているのは獰十朗氏。そして他に誰もいない。

「あれ? 茶有と安中ちゃんとチャーミーは?」

 キョロキョロすると、獰十朗氏が悪い顔でニヤリと笑った。

「ちょっと、アンタと話したいから、席を外してもらった」

 え。

「……茶有がアンタの言うことを聞いたの!?」

 私は大げさに驚いた。絶対にあり得なさそうなんだけど!

 今日の短い時間だけでもわかる、茶有の嫌いっぷりよ。

 獰十朗氏が声に出して笑った。

「ははは。さすがだな! 正確に言うと、俺の妖術で俺とアンタとを切り離した。茶有が気づくまでには話をつけるつもりだ」

 そう言うと私に向き直った。

「アンタ、茶有と結婚するのを嫌がって逃げ出したんだろ? なんで今さら茶有と結婚したんだよ」

 …………またその話か。

 私はため息をつくと、獰十朗氏を睨むように見上げた。

「……あのね。アンタも人間の嫁をもらったなら、わかるでしょ? 私、嫌がって逃げ出した人じゃないから。お義父さんと約束した連中が二人とも言い逃れして反故にしたの。で、お義父さんが直接、約束した連中の子孫である私に直談判してきて、タイミングが良かったからうなずいた、って話」

 獰十朗氏が「あ」と声を洩らして手をポンと叩いた。

「そういえばそうだったか! 人間は長く生きていられなかったんだったな。嫁がいたのはずいぶんと前だったからなぁ。すっかり忘れていた」

 ……えぇ~。大丈夫かなこの人?

「顕界とつながってるんでしょ? その性格なら顕界人とも仲良くなりそうなのに……」

「そうだそうだ、仲良くなって、次にまた遊びに行くといなくなっているんだ。薄情だなと思っていたらそういうことだったか!」

 …………おバカちゃんかな~?

 と、私は獰十朗氏を呆れ顔で見ながら思った。


 獰十朗氏は再び声を出して笑うと、腰に手を当てる。

「ま、そんなことはさておき」

「さておかないでよ。重要な話だからね? ちゃんと覚えておいてよ!」

 すぐさまツッコんだが聞いていないモヨウ。そういうトコが茶有に嫌われる所以だよ!

「俺は、茶有に幸せになってもらいたい! 俺の親友だからな! だから、長い間待たせて今さら婚姻を結んだアンタを信用していない!」

 ちょっとこのおバカちゃん、人の話を聞いてた? というか、理解出来なかったの? それともおじいちゃん、数秒前のことは忘れちゃった?

 呆れ果ててもう口を開けているだけしか出来なくなった私に、獰十朗氏が言いだした。

「茶有の元に帰りたくば、俺を倒してからいけ」


 ――それでわかったよ、急に茶有たちがいなくなった理由が。

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