12話 安中ちゃんは案内が好き
安中ちゃんは案内が好き。
ゆえに、私と仲良くなってきたらいろいろなところへ案内すると言ってきた。
「いやー、案内人冥利に尽きますね! 最近では、ほとんどここへ訪れる人がいなかったので!」
確かに、ガイドをやっているのにガイドする人がいないのはつらいよね。
安中ちゃんと一緒に、まず第一スポットに向かった。
「ここから町が、一望できるんですよ!」
丘の上から下に広がる景色が一望できた。
確かに絶景だなぁ。
風に巻く髪を押さえつつ、眼下を見渡す。
そこは、どこか懐かしいような、和風ののどかな景色が広がっていた。棚田の先に合掌造りの家がポツポツと並んでいて、ところどころにある池が、光を反射してきらめいていた。
何もないところから滝のように水が流れ落ちていなければ、異界を感じさせない。……いや、そうでもないか。鳥じゃなくて人が飛んでたりするもん。
「あっちの霞がかかっているところは?」
空気遠近にしては、かなり霞んでいるところがある。 山がないので海かな? と思ったんだけど、霞みすぎていて見えない。
「あぁ。あれは異界の境目です」
とか、驚愕することを言われた。
「異界の境目ぇ!?」
安中ちゃんは何を驚くのか、といった雰囲気だ。
……そうよね。異界は孤島がいくつもあるって言ってたもんね。ただ、リアル地の果てがあると驚くよね。
……あぁ、私、異界に来ちゃったんだなぁ。
その風景はとても美しくて幻想的だ。ただ、なぜかわからないけれど見ていると寂しい気持ちになる。
……いまだに私が旅行気分だからだろうか。
茶有はこの異界を発展させたいらしいけど……。この景色が近代的になるのもちょっとなぁ、とは思ったりする。
「……安中ちゃんは、この異界が発展するのに賛成?」
ふと、そんなことを訊いてしまった。
安中ちゃんはキョトンとして私を見る。意味がわからないのかも?
「んーと、この景色がまったく違う景色になることを受け入れるかどうか、というか。発展とは、得てして慣れ親しんだ景色が消えていくものだから」
「あーなるほど! 奥様は難しいことを考えているんですねー!」
とか言われた。
さらに安中ちゃんは答える。
「その辺は茶有様しだいですが、私は案内できるところが増えるのは大歓迎です!」
ぶれないお答えだ!
感心していたら、フッと、脳天気な安中ちゃんにしてはシニカルな笑みを浮かべた。
「……それに、衰退するよりは発展の方が良いと思いますけどね? 考え方の違いかも知れませんけど」
そう言って、遠い目をする安中ちゃん。
つられて私も見た。
古代の神話では、〝最果て〟があると考えられていた。そしてここには最果てがある。行こうと思えば行ける距離に。
……茶有に、「顕界の地って実は丸いんだけど、知ってる?」って教えた方がいいかな。今後のためにもね!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます