4話 今後の予定を聞こうか

 山本さんは「もう、正座はいいよね?」と言いながら恐る恐る立ち上がり、

「古民家カフェは本当だよ。資格も取ったんだ。ただし、客層は異界の住人になるけど」

 って、どーでもいい説明をしてきた。

「そんなしょーもない弁解より、今後の予定を聞きたいんだけど」

 私が冷めた調子で言うと、山本さんは肩をすくめた。

「婚儀まで、ここで仮住まいしてもらう」

「なんで!?」

 ソッコーツッコんだよ。

 すると山本さんが冷笑した。

「なんで、って訊くの? 今まで散々約束を反故にしてきた一族を信用して解放する方がおかしいって思わない?」

 と、鋭いツッコミが!

「ぐ。……で、でも、このままいなくなったら失踪だと思われない? 他はともかく、宮司さんには心配かけたくないかなーって。……せめて説明させてもらえない?」

 と言うと、

「ご心配なく。私が説明しておくから。生活用品も必要なものはすべて整っているから、今からすぐに住めるよ」

 って言われたし!


 私はため息をついて抵抗を諦めた。

「……で? いつ結婚するの?」

 私は何気なく尋ねたら、山本さんは軽く答える。

「明後日」

「早すぎない!?」

 監禁されるから早いんだろうなとは予想がついたけど、それにしても早すぎでしょ!

 って考えてからハッとした。

「あ、籍だけ入れるとかそういう……」

 山本さんが『何言ってんだ』みたいな顔をした。

「籍は、顕界のしきたりでしょーが。異界は儀式を執り行うことで結ばれる」

 最後に付け加えた。

「それが、約束ごとだから」

 う。なんかチクチク言われるなぁ。私が破ったわけではないのに……。

「……いいけど。それって参列者なしってこと?」

 そんなにすぐだと参列者は集まらないよね?

 山本さんはニッコリ、と怖い笑みを浮かべた。

「招待は既にしてあるよ。ずいぶん昔にね!」

 ……ソデスカ。


 山本さんには、とりあえず曾祖父には何かしら助けた礼をしてもらえ、他人に尻拭いさせるのダメ、絶対!と、伝えた。

 約束をやぶったのを一族のせいにされてはたまらない。人助けに見返りを求めるのも野暮だなぁとは思うが、文化が違うのでしょうがない。条件を呑んで助けてもらったのなら守れよとは思うし。

 で、私は「ま、結婚出来るみたいだし、引っ越し先も決まったし、職は……これから決めればいいか」と自棄気味かつ楽観的に考えた。

 余裕があるのは、私がお祓い出来るからだろうね。いざとなったら全員まとめてお祓いしてやる!


 なので、山本さんにこの『外は廃墟中はマトモ』な仮の住居を案内してもらった。

「どうりでキッチンがちゃんとしてると思った」

 築百年くらい経ってそうな外見なのに、広々として現代的なんだもん。

「そりゃ、カフェだからね。改築したよ」

 と、山本さんが言った。

 あ、ホントにカフェをやる気なんだな。てっきり私を呼びよせる罠かと思ったわ。

 ……ん? そういえば、トイレやバスルームもちゃんとしてた。トイレなんか洗浄機能付きよ!?

「異界なのにトイレが洋式とはこれいったい」

「異界の住人は、上位存在ほど人の姿形に近いから。快適さは求めるよ」

 、ねぇ。ま、いいけどね。

 カフェなのにバスルームはなんであるんだろ、とは思うが、たぶん私を監禁するのは考えていたんだろう。無事結婚式を終えたら撤去するんだろうなー。


 案内が終わった後もずっと山本さんと会話していた。

 主に、古民家カフェについて。

 ……いや異界について訊けよ! って感じだけど、山本さんがカフェの話ばっかりするからさー。

 そんなにやりたいんだ?

 じゃあ、曾じいちゃんを全国古民家カフェ巡りにでも付き合わせたらいんじゃね? 奴の奢りでな!


 話していたらいつの間にか夕食の時間になっていた。

「カフェ経営希望なら、カフェメニューで夕食出してよ」

 と、私が催促したらその気になった山本さん。

 キッチンに入り、時間をかけて作ってくれた。


「お待たせ!」

 と、やややつれた雰囲気の山本さんが料理を持って現れた。黒の前掛けをして見た目だけはカフェのマスターのようだ。

 出された料理をのぞき込み……。


「…………。これはいったい?」


 謎料理が出てきた!

 ワンボウルといえばそうだけど、これは……人間が食べられるものなの? 紫と青と黒のマーブル模様をしているんだけど? シミュラクラ現象起こしてるし……。


 料理をジーッと見ていた私は、ガバッと顔を上げて山本さんを見た。

「ねぇ。大事なことを聞くけど、ちゃんと答えてね。……人間とあやかしって、食べるものが違うんじゃない? 顕界の料理を食べたことある?」

 異界の住人と顕界の住人、食べ物が違うとかあるあるよね。その場合、私は死ぬんですけど? なんで曾じいちゃんのやらかしで私が死なねばならぬのか!?


 ……と、考えていたら山本さんが言った。

「ほとんど一緒だよ。こっちにしかない食材や、顕界にしかない食材はあるけど、一緒だって思ってもらってかまわない。これも、とあるカフェで食べたメニューを再現したんだ!」


 どこのカフェだよ。異界のカフェじゃないの?

 ――いや、現地産の食材は、鮮やかな青の食材があるのよ、きっと。それに、紫キャベツも紫だし、紫のサツマイモもあったわね。そういうのを使ったの、きっとそうよ。

 私はスプーンを手に取り、ソレを掬って口に含み……山本さんの顔面目がけて噴いた。

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