3話 快諾してしまった……
ハリセンで掌をポンポンと叩きながら山本さんに尋ねた。
「――で? その理由って何? その前に、異界に招待したとか、なんの冗談?」
山本さんは語り始めた。
「――むかーし、あなたの先祖を私は助けたことがある。その礼として、助けた者の娘を私の子どもの嫁に貰い受けるって約束した。ところが、あなたの先祖は反故にした。逃げだし、生まれた娘は里子に出した。その後、君の曾祖父に当たる人をたまたま見つけて、彼の娘を息子の嫁に貰い受ける、って話でまとまったってわけ。それが、あなた」
「おい何言ってんだ。なんで私が曾じいちゃんの娘になるんだよ!? 曾孫だ曾孫!」
遮って怒鳴った。
山本さん、ビクッとしつつもやや怒りモードで答える。
「そう、あなたの曾祖父は、私と約束して以降、子を作らなかった。私と約束した時点では息子だけ、そして、次に生まれてくるのが女児なのを見越して、子を作らなかったのだ。酷いイカサマだろう?」
え。
山本さん、笑顔で青筋を浮かべてます。
「あなたの曾祖父は言ったよ。『私には娘が生まれなかった。作らなかったとしても、結果的に生まれなかったんだから同じだろう? だから、約束はなしだ』ってね。……あなたたち一族は、本当に言い逃れが上手い。約束を守らないのだったら最初から約束しなければいいだろう? なのに、あなたたちは平気で約束を取り付け約束を破る。こっちは二度も助けたのに、恩知らずにもほどがあると思わないか?」
え。
……形勢が不利になってきた。
「二度? 助けたのは……」
「あなたの先祖と、あなたの曾祖父だ」
「ジジイ~~~~!!!」
思わず叫んでしまった。
あンのクソジジイのせいで私、異界に連れ込まれた挙げ句、じーちゃんと同年代の男と結婚する羽目になったんだけど!?
山本さんは畳みかけてくる。
「あなたは、曾祖父の娘として生まれてくるはずだった。それを捻じ曲げたので、あなたの一族には男児しか生まれない罰が与えられた。あなたの一族は、性別交代で異能力を授かるから、つまり女児が生まれないということは跡継ぎの異能者がいなくなるということだ。許されたのであなたが生まれた」
えぇ……。そんなこと言われても。
そもそも跡継ぎって。継ぐような家業、曾じいちゃんはやってないよ。
「……ていうか、なんで今さら? 自分で言うのもなんだけど、ワタクシもう二十九歳ですよ。普通、もっと若いときに迎えに来ない?」
と言ったら、山本さんが答えた。
「君を見つけたときには既に許婚がいたから手が出せなかった。だが最近、破談になったので連れてくることができた」
い、いな、ずけ!?
彼氏のこと!?
……ずいぶんと大仰な……。まぁ、こっちは結婚しようと思ってましたけどね! 向こうは微塵も思ってなかったけど!
私はそれを思い出し、ハァ、とため息をついて頭をかいた。
「……異界の住人と結婚って……。別の約束にすれば良かったのに。それなら先祖や曾じいちゃんだって約束を守ったんじゃないのかな。しかもさ、私の結婚相手ってじーちゃんと同い年の男でしょ? ――ちょっと考えてみてよ。私は何の約束もしてないし助けてももらってないのよ? なのに年寄りのあやかしと結婚なんて、さすがにお断――」
「これがうちの息子です」
サッとスマホを取り出し私に写真を見せてきたよ。――ちょっとこの異界人、顕界に慣れすぎてやしませんかい?
……などと考えつつスマホを覗き込んだ私。
「うん、結婚します」
と答えていた。
即答した私はハッとしてハリセンを取り落とし、頭を抱えてしゃがみ込んだ。
「あぁ~っ! つい反射的に答えてしまった!」
「気に入っていただけて何よりだ」
山本さん、にっこり。
――スマホに写っていたのは、めっちゃ私好みのイケメンだったのだ!
「くっそ……。面食いの自分が恨めしい……!」
山本さんがにこやかに言った。
「いやぁ、あなたの許婚を見たとき、『あ、コレ、うちの息子でもイケるな』って思ったんだよ。同じ系統でしょ?」
やめて。
元カレは、ジャンル的には塩顔のイケメンだ。顔もいいが特にスタイルが良い。身体の半分が足なので!
ただし性格は難がある。
ひと言で表すと、自分本位。
居酒屋で「そこにある塩を取って」すらもやってくれない。わりに、人には頼むのはどうしてなのか。
それでも『見た目が好き』というしょーもない理由でずっと付き合っていたわけですが……。ま、フラれましたけどね!
二股をかけるようなタイプではないから、たぶん独身貴族というヤツだったんじゃないかと思う。
自分一人の世界で閉じていて、他者を必要としないタイプ。私は結婚願望は強いけど束縛するタイプじゃなかったから付き合いやすかったんだろう。「あれやってこれやって」も、やってくれないから諦めたし。
……などと、遠い目で思い返し、そして開き直った。
そうよ。
そんなのにフラれた私なんだから、見た目がドストライクならもうそれでいいじゃない。
実年齢がじーちゃんと同い年だろうと、人間じゃなかろうと!
たぶん自棄になってるね。
だってしょうがないじゃない、宿なし職なし彼氏なしなんだもん!
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