2話 さっそくお祓いしましょう

 さて。

 私がやってきたのはとあるボロ……エヘンエヘン、古民家だ。

 たいそうボロ……趣のある雰囲気で、ちょっとつついたら倒壊しそう。

「これは……対策が必要だな」

 私は背負ってきたリュックから、作業着をキッチリ着込み、ライト付きヘルメットを被った。

 そして、腰に除霊グッズをぶら下げたベルトを巻いて、いざ出陣!


 ……ちなみにこの恰好、依頼者と他社の神職が一緒だったら(主に体裁のため)出来ない。顧客イメージが大事なので、依頼者の前ではなんちゃって巫女の扮装をしてお祓いをしなければならないのだ。他にも、『服装に気を遣え』とかうるさい神社もあるので、うちの宮司さんならともかく他の神職の方と合同の時は宮司さんやその神社に巫女衣装を借りることになる。

 今日はいないので思うがままにやれますね!


 門扉を開けて通ったとき、「あ、これは本気でヤバいな」と感じた。

 空気が変わったのを感じとったから。

「これは……宮司さんにも来てもらえば良かったかな? 一人だと骨が折れそうな予感~」

 独りごちながら玄関の引き戸を開けて、中に入る。

「……意外と中は静かだな」

 違和感は、門扉を通ったときだけだ。

 家の中は驚くくらいに普通だった。

 そして、綺麗だ。


 靴は脱がずにそのまま土足で上がる。何があるかわからないからね! 作業ブーツは工事現場と除霊の必需品です。

「手前の部屋、クリア」

「キッチン、クリア」

 事前にもらってある間取り図を見てチェックを入れつつ進む。ちなみにこのペンライト、読んで名の如くペンとライトが一体化している商品です!

「バスルーム、クリア」

「トイレ、クリア」

 最終的にたどり着いたのが、奥の座敷だった。

「客間が一番奥って、作り的におかしくない?」

「設計ミスですね、申し訳ない」

 私の独り言に回答した者がいた。

 私は反射的にそちらを向くと、その者は、ライトが直撃したようで眩しそうに目を細めた。

 そして両手を挙げる。

「落ち着いてください。私は依頼者です」

 そう言うと、私に近づき、名刺を出してきた。

 名刺を受け取って、まじまじと見る。

「山本梧楼さん……?」

 字面がすごいな。人のこと言えないけど。

 そして肩書きが、クリエイティブディレクターですって! デレクターって何!? なんともオサレな職業だ!

 顔を上げて、山本さんを見ると、またライトが直撃したようで眩しそうな顔をした。すみません。


 ライトを切り、薄暗い部屋で山本さんを見ると、確かにカタカナ職業っぽい感じの人だった。

 Tシャツにジャケット、黒のデニムパンツ。おなかは出てない。というよりスタイル良し!

 顔はまぁまぁかな。黒に近い焦げ茶の髪にをオールバックにして、サイドを刈りあげたツーブロックで瞳は水色。イケメンだろうけど好みのタイプじゃない。そして私より十は上のようだった。


 山本さんをまじまじと見つめつつ考えを巡らせていると、ようやくなぜここでカタカナ職業の名刺を出されたのかに思い至った。

「あ、つまり、ここを古民家カフェにするってことですね」

 うわー。無理だろ。開店早々倒壊して、下手をしたら地方新聞の一面に載る騒ぎになるかもよ?


 ……という思いが顔に出たんだろう。山本さんが苦笑した。

「外は倒壊寸前のような趣ですが、意外と中はしっかり残っているんですよ」

 うん、見事に読まれました。


「そうですか。……今はまだ調査途中ですが、今のところ、建物内には不審な点は見当たりません」

 と、私は途中経過を報告した。

「ただ……。困ったなぁ。私、家憑きや土地憑きが得意なんですよ。宮司も一緒に来てもらえば良かったと後悔しています」

 私が眉を下げたら、山本さんがハテナ?という顔をしたので説明した。

「私のお祓い、荒っぽいので」

 私は腰に下げたハリセンを、居合抜きのように振り切った。


 スパーン!

 山本さんが吹っ飛ぶ。


「人憑きのお祓いは、怪我をさせてしまうので苦手なんですよねぇ。とはいえ、憑いている間は記憶が混濁しているので……ま、いいかな!」

 吹っ飛んだ山本さんは痛がりもせずに身体を起こし、驚いた目で私を見た。

「私に、憑いてる、と?」

「はい。門扉に仕掛けがしてあったようですが、霊源は貴方です」

 私はハリセンを携えながら笑顔で山本さんに近寄った。


 ……と。山本さんが笑い出した。

「いや見事だ。だいたいは合ってるよ」

 私は山本さんの目の前に立つ。それなのに、山本さんは余裕をもって笑いながら尚もしゃべる。

「ただ、残念なことに致命的に間違っている部分がある。私は憑かれていない。人に憑いているんじゃなく、は、擬態しているんだ。そして……」

 山本さんがニヤリと笑った。

「門扉に入ったときに、あなたは既に私の結界の中だ」

 そう言って笑った山本さんの頭を、思いっきりハリセンでぶっ叩いた。

 山本さんは畳に顔を突っ込んだ。


 余裕綽々の山本さんを問答無用でビシバシ打ち据えると、「ごめんなさいもうやめてください許してください」と謝り始めた。

「いや、結界を解けよ」

 違和感を感じないほどに結界に捕らわれているようなので、元に戻った感覚になるまでしばき続けることにしたのだ。デレクターとかいうオサレな肩書きの人が、見る影もないですね!

「ちょ、ちょっと、話を聞いて。違う、これにはわけがあるから。聞いたら納得するから」

「だから結界を」

「異界に招待したの! 顕界に戻すには手順がいるからどのみち私を叩いても解決にならないから!」

 必死に言うので、

「とりあえず、正座!」

 と、怒鳴った。

 山本さんは瞬時に正座をした。

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