お祓い専門の巫女ですが、異界に嫁入りすることになりました! ~人間なのに鬼嫁って呼ばれる私のスローライフ(中編)

サエトミユウ

1話 いきなり宿なし職なし彼氏なし

 片想い六年、付き合って十年の彼氏と喧嘩した。

 そして別れた。


 いきなり重い話ですみません。青天の霹靂だったもので……。

 私は幽蝉美衣(ゆうぜみみえ)。グレイブラウンの髪に金緑の瞳、148cmの童顔で若く見られますが、今年で二十九歳。

 周りが結婚ラッシュで、その波に乗っておきたいお年頃です。


 いや、じゃあなんで喧嘩して別れてんだよ、って話になるんだけどね。

 喧嘩するまでは、その彼と結婚するつもりだったよ。

 ところが、相手は私と結婚するつもりは微塵もなかった、って話。


 彼、二週間後に海外に転勤するのよ。

 でね、そうなると、当然結婚してついていく、って選択肢一択でしょ? 一択だよね!?

 ところが彼は「これを機に別れる」って選択肢一択だったらしい。

 まぁ、私と別れる選択肢一択の奴に「結婚する気あるの!?」って迫ったって喧嘩になるのは当たり前だし、別れる選択肢しかない奴と喧嘩したら当然別れることになるし……。

「私、待ってる」戦法も通用しません、向こうは別れる気ですから!

 それが先日。


 ま、そこまではまだよかった。いや全然よくないけどね! 心の傷以外のダメージはなかったのよ。

 ――彼についていく気で、会社を辞めました。

 ――ついでにアパートの解約もしました。


 どうすんのよコレは!?


 ちなみにその事は彼に伝えたよ。

 なんて言ったと思う?

「は? バカなの? 自分で勝手にやったことだろ、自分一人で何とかしろよ」

 ですよ。

 おっしゃる通りですけどね!

 十年付き合った彼女とか、そんなの関係ないらしい。……そういう奴だとわかってはいたけれど。


 かくして、いきなり宿なし職なし彼氏なしになった。


 実家も頼れない。もう居場所がないそうだ。「帰ってくるな」と言われた。

「ハァ……。どうすっかな」

 心機一転にもほどがある。


 とはいえ、こうなってしまったからには仕方がない。

 泣いて縋っても誰も助けてくれないし。

 幸い、アパートの契約はまだ切れていない。いろいろ売り払ったので物は少ないけど、その代わり退職金も含めて多少の余裕は出来た。

 次の引っ越し先は職を決めてからだな、出来ることをしよう、と私は神社に向かった。


 そう、私は神社で修行をしているのだ。名付けて【お祓い師】。【巫女】とも言うのかもしれない。


 物心ついたときから、この世のものではないもの――あやかしが『視える子』だった。

 あやかしは、異界からやってきて悪さをし、時に人に乗り移り、時にこの世界の者――顕界の住人と交流したりする。ひと言でまとめると『異界の住人』だ。ちなみにこの世は【顕界】といって区別している。

 あやかしは、大物なら誰にでも視えるという話だが(人に擬態をしているため区別はつけられないそう)基本は視える人と視えない人がいて、最近では視える人がめっきり減ってきたという。私も、同年代で視える知り合いは皆無だった。

 曾おじいちゃんがそういう体質(本人としては能力)だったので、周りは『私に発現したか』という冷めた対応だったし、あまり真剣に受け止めてもらえなかった。

 両親とか、「大人になれば治るんじゃない?」と、厨二病に罹患したみたいな発言をするワケですよ! 視えなくて被害がないと、親ですらものっすごい他人事だ。

 両親が放任主義なのもあり、あまり裕福でなかったのもあり、私は自然と両親と疎遠になっていった。

 大学も、自力で行ってたわ。しかも一人暮らし!

 勉強よりもバイトをこなしていた思い出の方が強い。


 唯一、曾おじいちゃんだけは私の行く末を真剣に考えてくれて、曾おじいちゃんの知り合いという神社で修業させてくれた。そこで私は修業していくうちに【祓える】力をつけ、どんどんと力量をあげていったのだった。


 神社に着くと、さっそく宮司さんに会って話をした。

 宮司さんは、曾祖父の知り合い……具体的には曾祖父同士が知人で、そのお孫さんだ。体質が隔世遺伝らしくて、一代飛ばしての世襲らしい。

「――というわけで、いい男がいたら紹介してください。あと依頼もお願いします」

 そう締めくくったら、宮司さんがにこやかに返した。

「なら、うちの孫はどうかな? 息子夫婦に産まれたんだ」

「二十九歳差ですか。あっはっは」

 笑うしかないじゃん。そして息子さん夫婦は私より年下じゃなかったでしたっけ? 血涙流していいですか?


「冗談はともかく。なら、本格的にこっちの道に進むか」

 と、宮司さんが言ったので手を横に振った。

「いやぁ、神職は給料が安いんでこれ一本では無理ですね~」

 身も蓋もないが、本業でやるとなるといろいろ制約が出てくる。

 今のところはフリーランスで紹介してもらいつつ働くのがベストだろう。


 宮司さんは、憑いている人を祓うのが得意なのだが、怪異や土地憑きの除霊は苦手だったりする。

 主に厄除けを主流としている神社だけど、家の怪異に悩まされるとかいう人が駆け込んでくることもある。

 そういった場合に私が出動している。

 前は宮司さんも一緒に行ってたけど今じゃ私一人で行くもんね。『他じゃ手に負えないって言われた』、って案件も祓えたので、私って腕がいいんだと思う。

「他の氏社や総本社にも宣伝してください。ただし、バイト代レベルじゃ、しばき倒します」

 と伝えたら、

「さっそくあるよ」

 と、返された。

 他じゃ手に負えない案件だそうだ。

「宣伝するまでもなく、評判いいんだよねー。手に負えない案件を片してもらえるからってさ。除霊出来ない分社も多いしね。総本社はさすがに粒ぞろいだけど、それでも手に負えない案件とかはうちに回ってくるよ」

 と、お世辞なのかわからないけど宮司さんが言ってくれた。

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