第3話 空の青さを知る人は
すると他の男は僕の腹部を蹴った。
動けない僕にこの仕打ち。
そんなもんなのかな。
僕の人生ってそんなのばかりなのかな。
クソみたいな人生
クズみたいな人生
大人だと思っていた高校生も成人してしまえば子供で。
見た目は子供で頭脳は大人だよ。
僕は心のなかで思った。
「コイツを殺せば勇者になれるぞ!」
男が言う。
「お前、勇者になったらなにしたい?」
「堂々と家に入って堂々と女抱いて。
ちょこっとモンスターを倒せば金が入って経験値が貰えるようになって――」
男が笑うそれも楽しそうに。
それはまるで夢を語る子供のように……
残酷なようでそうでない。
子供の頃、ゲームで経験値を稼ぐためにモンスターを倒していた。
その感覚に近いんだろう。
僕は蛙。
井戸の中の蛙。
井戸の中の蛙大海を知らず。
されど空の青さを知る。
蛙なんだから海を知らなくていいんだよ。
空が青いってことは井戸の中からでもわかるよ。
空が青いからこそ井戸から出たかったんだよ。
青い空の向こうが知りたかったんだ……
子供の頃そう思っていた。
ずっとそう思っていた。
『されど空の青さを知る』が後付であったことを知ったのは大人になってからだ。
工藤新一の年齢を過ぎて28歳になってサザエさんのマスオさんの歳になった。
僕も5歳年下の奥さんがほしい。
そんなことを思っていたらあっという間に30歳を過ぎ。
野原ひろしの歳になっていた。
29歳の奥さんが欲しかったな。
アニメは好きだった。
アニメのキャラは歳を取らない。
でも僕は歳を取る。
それに気づいたとき。
僕は絶望した。
金なし。
職なし。
彼女なし。
最低限の収入を不定期のアルバイトをして暮らしていた。
家賃と1日2食の食事。
趣味はない。
本を買う金もないしゲームも知らない。
スマホでたまに読む無料マンガが楽しかった。
それだけだ。
それだけなのに……
「泣いているの?」
小さな女の子の声が聞こえる。
そう言えばなんか痛くない。
女の子が僕を布団で自分と一緒に包み込む。
「こうすれば何も見えないからね」
「え?」
「こうすれば何も聞こえないよ」
女の子が優しく言って僕の耳を塞いだ。
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