第45話 膠着
夜の街の灯は未だ瞬きを再開していない。
世界の音は止まったままだ――陽楠市のある一角を除いて。
だが、それらはすべて錯覚だ。現実の時間はとどまることなく流れており、ここには世界の一瞬を切り取ってコピーした、閉鎖空間が広がっているだけだ。
昴たちに確かめている余裕はなかったが、瞬かない風景というのは実のところ閉鎖空間の壁に映っているビジョンに過ぎず、それを越えて先に進むことはできない。
その閉鎖空間内の陽楠学園には、現実の学園には存在していない神獣の巨大な体が倒れ込んでいた。南校舎は完全にその下敷きとなって倒壊し、北校舎にも神獣の顎がのしかかるような形でめり込んでいる。
神獣はどこかお疲れのグロッキーというポーズで固まっているが、もちろんそれは見た目だけだ。
今は神獣自身が放出している無尽蔵なアイテールによって常識外れにその力を高めた鋼鉄姉妹が、桁外れなサイコキネシスで抑えつけているだけだ。
それは大地に押さえつけるというよりも、縛りあげるといった感覚に近いものだったため、神獣は大地にも校舎にも、それ以上にめり込むことなく、完全に静止している。
しかもその力は神獣の体内にまで及び、衝撃波の類さえ使用不能にしていた。
「……どうしよう?」
鉄奈は神獣の背中に立ち、途方に暮れたように姉を見る。
「どうしましょう?」
鋼も同じような表情で妹を見つめ返した。
「けどなんか消極的だよね、こいつ」
鉄奈は足でコツコツと、神獣の硬い背中を踏みならす。
「そうですね――わたしたちの世界の神獣はもっと獰猛でした」
鋼も同感だった。彼女たちの世界を滅ぼした神獣は、彼女たちを見るなり凄まじい猛攻を加えてきたのだ。
ところが、この神獣は遠慮気味にも見える衝撃波――とはいえ、ひとつの町を容易く薙ぎ払う威力があるのだが――などを飛ばしてきただけで、その真の力を振るっていないようだった。
「そういえば完全じゃないって言ってたっけ?」
「ええ……」
鋼は浮かない顔で頷いた。
確かに攻撃力の低さ、あるいは消極性は不完全さを連想させるものの、その反面、再生能力については彼女たちの世界のそれを完全に凌駕している。
「力の大半を再生能力に回しているのかな?」
「それにしても限度が無さすぎです」
彼女たちは猛攻に猛攻を加え一度は塵以下にまで粉砕したのだ。
だが、それでもなお神獣は元通りの姿で甦ってきた。
このまま戦い続けたところで、キリがないと判断した彼女たちは、サイコキネシスを使っていったん神獣の動きを止めることにしたのだが、そのとき予想以上の抵抗を受けてバリアもろとも墜落してしまったのだ。
仲間の安否も気になるところだが、神獣は今なお凄まじい力でサイコキネシスをはね除けようとしており、鋼鉄姉妹はそれを完全に抑えるためにも余分な力は使えず、そこを動くこともできなかった。
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