第38話 最後の想い
小夜楢未来が、その淡い想いを告げたとき、彼女の敵はすでに昴たちの背後に迫っていた。いったいどこから上ってきたのか、そいつは校舎内を通ることなくフェンスを跳び越えて音も立てずに屋上に降り立っていた。
西御寺篤也――それが敵の名前だ。
天使を探して世界を転々としてきた未来を追い続けていた組織の一員。その組織こそが、彼女の最愛の家族を禁忌に触れたものとして殺めた怨敵でもあった。組織はわざわざこの学園に網を張って彼女を待ちかまえていた。西御寺篤也という名の網を。
組織のメンバーは任務に私情は挟まない。それはこの男も例外ではない。西御寺は着地と同時に、その手に携えた漆黒の槍を躊躇することなく投げつけてきた。
咄嗟のことではあったが、未来から見れば西御寺が現れたのは真っ正面だ。身をかわすのは難しいことではないと思えた。
しかし、その狙いはどこかおかしい。
考える前に未来の体は動いていた。驚く昴たちをかき分けるように前へ出る。その眼前でその黒い槍は四つに分離し、そのことことごとくが彼女の体を串刺しにしていた。
本来ならばその槍は、人体など軽く貫くだけの力を秘めている。しかし、未来は自らの魔力を活性化させて、自分の体に突き刺さった槍が背中から突き抜けることを阻止した。
なぜなら、彼女の背後には高月由布子が居たからだ。
なぜ恋敵の盾になってしまったのか――考えるまでもない、昴が悲しむのが嫌だったから――それが一番の理由だ。
だが、それだけでもない。罪深い自分を笑顔で迎えようとしてくれた、由布子を守りたいという思いも、確かにそこにはあったのだ。
それが友情なのか感謝なのか、未来には理解する暇も考える余裕もなかったが、由布子に対して好感を抱いている自分を見つけることはできた。
「未来ぃぃぃぃぃっ!」
悲痛に満ちた昴の叫びが響く。彼はきっと自分なんかのために泣いてくれるのだろう。それは申し訳ない気もしたが嬉しくもあった。
(ああ……でもせめて……わたしの本当の名前は……知って欲しかったな……)
意識が途切れ、彼女の手からスケッチブックがバサリと落ちた。
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