第34話 予兆

 光は校舎全体を覆うように立ちこめていた紫色のオーラを、消し飛ばすようにして広がっていった。

 激しい空中戦を繰り広げていた鋼鉄姉妹は、思わず手を止めて光の中心へ視線を向ける。驚愕と戦慄がふたりの心をわしづかみにしていた。

 同時に激しい怒りと哀しみが込みあげてくる。

 ふたりはその光を──その輝きの意味を知っていた。

 忘れようはずもない。なぜならそれは彼女たちの世界を滅ぼした怪獣が――〝神獣〟が発していた光に他ならなかったからだ。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 鉄奈が怒りの咆哮をあげる。

 北校舎の屋上から無尽蔵に溢れ出るアイテールを吸収し、瞬時にして膨大なエネルギーを蓄えた彼女は、その力を利用して残るすべての敵を念動力のフルパワーによって攻撃した。

 何百、何千といたかもしれない怪物たちは、その不可視の力に抗うこともできず、一瞬にして砕け散ってしまう。空も地上も屋内でさえ関係ない。恐るべき力だった。

 戦いの音が消え、静寂に包まれた虚空に鋼鉄姉妹だけが浮かんでいる。


「鉄奈!」

「いこう、お姉ちゃん! アイツが出てくる!」


 鉄奈は確信していた。憎悪と呼ぶには、やや純粋すぎる怒りをその目に湛えて、彼女は北校舎の屋上を睨みつける。


「わたしたちの世界みたいにはさせない! ダンも昴も由布子さんも絶対に殺させない。今度は世界を絶対に守ってみせる!」

「ええ」


 瞳に鉄奈と同じ怒りの色を滲ませて鋼も力強く頷いた。

 かつて、こことは異なる遠い世界で、人類の最後の希望として造り出されたふたりの少女は、第二の故郷を守るために、全速力でその光の中心へと突き進んでいった。

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