第33話 さよなら未来

 ――そこに至るまでにいったい何体の敵を葬ったのか。

 昴と柳崎は際限なく押し寄せる敵集団と無我夢中で戦い続け、ようやく北校舎の屋上へとつづく扉の前にたどり着いていた。

 さすがにふたりとも大きく肩で息をしていたが、闘志はまったく衰えていない。

 振り返れば、怪物の残骸が瓦礫となって廊下と階段を埋め尽くしている。校内にはまだまだ敵の姿が見うけられたが、怪物は彼らが最後の階段へと差しかかると、それ以上は追ってこなかった。


「柳崎、準備はいいか?」


 昴は息が完全に整うのを待つのももどかしく、目の前の扉を睨みつける。


「おうっ」


 柳崎もまた疲労を無理矢理振り払うかのように、いつもの不敵な笑みを取り戻すと力強く頷きを返してきた。


「いくぞ!」

「おう! いざ、お姫様の元へ!」


 ふたりは勇気と闘志をみなぎらせて、同時に扉を蹴破った。



 屋上には強い風が吹き荒れていた。

 周囲を取り巻くフェンスも、それに沿うように並べられたベンチも、床に備えつけられた花壇の花々も、この場に立ちこめる紫の光に染めあげられ本来の色を失くしている。

 小夜楢未来はいつものセーラー服姿で、片手にスケッチブックを携えてそこに佇んでいた。小さな違いは見慣れた眼鏡を外し、常に結っていた長い髪を解き放っていることだ。たったそれだけのことで、未来は見違えるほど美しく感じられた。


「美人だ……」


 柳崎は思わずその美しさに目を奪われていたが、昴は構うことなく周囲に視線を走らせる。ここにはもう怪物は配置されていないようだ。


「――由布子!」


 求める少女の姿を未来の背後に見つけ、昴は声を上げた。

 意識はないらしく仰向けのまま祭壇の上に横たえられ、美しい裸身を夜風にさらしている。白い肌には魔法陣のような紋様と、黒魔術を思わせる意味不明の文字や記号の数々が描かれていて、まさしく生贄さながらの様相を呈していた。


「未来」


 昴は険しい表情を未来に向けた。彼女には聞きたいことがいくつかある。だが、まずは由布子を取り戻すのが先決と考えて昴は金色の鎌を構えた。しかし、未来は逃げるそぶりもなければ、応戦の構えもとらず、平然とそれを見つめ返す。


「少し、遅すぎたわね」


 未来が呟いた瞬間、由布子の体から圧倒的な光の奔流が暴風を伴って溢れ出した。


「なっ!?」

「由布子!?」


 叫ぶ昴の耳に魔女の囁くような声が滑り込んできた。


「さよなら――未来」

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