第32話 空中戦

 戦いは空でも続いていた。

 渦巻く雲が立ちこめた暗澹たる風景の中で、湯水のように湧き出てくる怪物たちを、金色の武器を手にした鋼鉄姉妹が蹴散らしていく。

 超能力を使えば、さらに多くの敵を一度に吹き飛ばせるのだが、現在のアイテール濃度では消耗しすぎる危険があった。

 幸い、敵の布いた魔術的な防御陣の影響で、陽楠学園一帯のアイテール濃度は、通常時に比較して格段に増強されている。

 だが、エネルギーの消耗を気にすることなく戦えるほどではない。

 世界を滅ぼした巨大な怪物さえも、怒濤の攻撃で葬り去った無敵の姉妹が、その真の実力を発揮するには、まだ全然足りていないのだ。


「ええいっ、めんどくさーい!」


 鉄奈はなげやり気味に叫びつつも、勤勉に戦いつづけていた。三段階に伸縮する槍を、物干し竿のように長くして、飛来する怪物どもを、超高速の斬撃で薙ぎ払っていく。ヘタに突き刺すよりは、その方が効果的だった。

 一方の鋼は無言のまま、重量感溢れる鉄球を軽々と振り回し、群がる敵を力任せに叩き潰していた。

 鎖の長さは担い手の意志に従って自在に長さを変え、間合いを選ばぬ攻撃が可能だ。その質量を考えれば彼女のほうが振り回されそうなものだが、そこはさすがに超人――見事なまでにその質量と慣性を支配している。

 彼女たちは幾度か北校舎の屋上に近づこうとしたのだが、その度に敵の圧倒的な物量に押し戻されてしまっている。

 強引なテレポートも考えてはみたが、どうやらこの一帯には空間に異常が発生しているらしく、それは断念せざるを得なかった。


「しかし――やはりそこが本命のようですね」


 敵の動きが鋼にそれを確信させる。


「昴さん、柳崎さん――頑張って下さい」


 鋼は懸命に戦う妹の姿を一瞥すると、自らもまた新たな敵の群れへと向かっていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る