虫取りするガキをニコニコしながら眺めていたお姉さんたち

逆塔ボマー

あるいは既に虫籠の中

「うふふふ、呼ばれて来たよ、っちゃん」

「あー、裂け姉さけねぇさん! きてくれましたかー」

「可愛い後輩からのお誘いとあらばいつだって来ますわよ。いや本当に後輩なのかは知らないけど。どうもっちゃんの方がルーツとか古そうだけど」

「あたしにとっては先輩ですよぉー」


「んで、なに、見せたいものって」

「これですー。こないだ捕まえましてー」

「うわっ、久々に見たな、こんな絵に描いたような夏休みのガキ」

「前はいくらでもいたのに、最近めったに見なくなりましたよねー」

「ほんとなー。いまどき半ズボンって、まあ居るっちゃあ居るけどさぁ」

「やっぱこういうのが一番ですよねー」

「んで……『虫籠に入ってる』ってことは、捕まえ方は例のアレ?」

「アレですー。裂け姉さけねぇから習った、『因果応報系』のです」

「わたしも昔、先輩から習ったやつだけどなー。より小さなモノを遊びで捕まえて平気な輩は、同時に、より強いモノの遊びにも捕まってしまう……因果の脆弱性を突くから、神隠しに近いことしてんのに簡単よね」

「簡単なぶん、ニコニコして見てるうちに逃げられることも多いですけどねー」

「成功率低いのはいいんだけど、そもそも最近は試す機会もないんだよねェ」

「なんで減ったんでしょうねぇ」

「んー、少子化とか、親が過保護になったとかもあるんだろうけど……っちゃんって、暑さとかわかんない子だっけ」

「えーっと、夏くらいしか出歩けないんですけど、言われてみれば暑いってよくわかんないですねー」

「わたしも元々コート着てて夏はクソ暑いから、差がわかんないんだけどさ。なんかさ、最近の天気おかしいらしいよ。とんでもない酷暑の異常気象で、命にも関わるくらいなんだって。前に街に出た時、新聞にも書いてあった。子供らが外で遊ばなくなったの、たぶんそれもあるわ」

「へぇー。裂け姉さけねぇ、やっぱ物知りですねー」

「むしろその辺はっちゃんの方が詳しくないの? わたし、インターネットとかよく分からないからさぁ」

「自分がそこで語られるのと、それに詳しいのとは別物ですよぉー」


「ところで裂け姉さけねぇの方は、いまの話の様子だと、最近は捕まえられてないんですかぁ?」

「あーダメダメ。全然捕まんない。全然標本コレクション増えない。マスクして出歩きやすい状態は続いてるけど、野良で一人でうろついてるガキがいない」

「あっ、まだ標本づくりしてるんですか……」

「いやわたしも飽きっぽく色々やったけどさぁ。飼い続けてても可哀想なことになるじゃん。てか、その子、ちゃんとご飯とかあげてる?」

「大丈夫ですよぉ。一日一回、スイカあげてます」

「いや足りないだろそれ」

「いつも喜んで食べるのにー」

「それ飢えてるか渇いてるかどっちかだよ。『保存』しないなら、適当なとこで『リリース』してあげな」

「ええー」


「ところでさぁ。怖い話、していい?」

「ええー、やめて下さいよー、あたし怖い話ダメなんですー」

「はいウチらの間での鉄板ネタ、ありがとう。それはそうとしてさ、こないだ先輩らから聞いたんだけど」

「やっぱりするんですかぁ、怖い話……」

「なんか最近、居るらしいよ」

「居るって、何が」

「強いて言うなら上位存在……とでも呼べばいいのかなあ。『わたしたち』みたいなのを見ながら、ニコニコしてる奴がいるらしいんだわ」

「見られてる感じとかないと思うんですけど……あっ、『概念系』の怪異ヒトみたいなものですか?」

「そうそう。なんか存在の階梯から違うみたい。だからまあ、怖い話って言ったけど、どうしようもないんだけどさ」

「なら聞かせないでくださいよぉ」

「ただ、っちゃんと話してて、ふと思ってさ。そいつが、例の『因果応報系』の方法みたいなの使ったら、わたしらもひとたまりもないかもなー、って」

「気づいたら虫籠の中、ってことですかあ?」

「そうそう。あるいはひょっとしたら、わたしらが気づいてないだけで、とっくにここは虫籠の中で。わたしらはそいつらの標本コレクションになってて、ニコニコ笑いながら見守られてたり、お仲間に『こんなの捕まえた!』と自慢されてたりするのかもね」

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虫取りするガキをニコニコしながら眺めていたお姉さんたち 逆塔ボマー @bomber_bookworm

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