第5章 先輩の悩み事編
第162話 ルークくんが幸せそうで何よりだよ
暗闇を揺蕩っていた意識の中に、光が差し込むように、色が入ってくる。
遠くで自分を呼ぶ声が聞こえてきて、ブレアはゆっくりと目を開けた。
ぼやけた視界で、目の前に人が立っていることを確認する。
寝返りを打って上を向くと、こちらを見下ろしてくるシトリンと目が合った。
ブレアが目を覚ましたのを見て、黄色い瞳がキラキラッと輝く。
「ぅ……ん、おはよ……?」
重い目を擦りながら声を出すと、瞳の持ち主――ルークの顔が、真っ赤に染まった。
それからブレアから逃げるように、ばっと後ろを向いてしゃがんでしまった。
「どした……のー?」
「すみません、おはようございます。」
身体を起こしたブレアがまだ眠そうに問いかける。
いつも通りなのに、ルークが急に顔を背けてしまった。
「君、何か変……?」
「すみません!この可愛い人と付き合ってるんだなーと思ったら……何か……!」
なんと言えばいいかわからないが、情緒がおかしくなる。
寝顔可愛い、朝から美人、鎖骨綺麗、着崩れてるえっちだ……と、ただでさえ朝は思考が忙しいのに。
そこに“付き合っている”という要素が加わるだけで、感情が爆発してどうにかなりそうだった。
「だからって、何でそっち向いちゃうのかな。」
「先輩を直視できません……!あと今めちゃくちゃにやけててキモいので見ないでください。」
そう言われると、どんな顔をしているのか気になってしまう。
ブレアはバレないようにそっと、首に手を回すように抱き着いた。
「ちょ、せ、先輩!?」
「どんな顔してるのかなーと思った。」
抱き着いたまま、ブレアが横から顔を覗き込んでくる。
柔らかいし、いい匂いがするし、耳元で喋られるとくすぐったい。
「は、早く着替えてください!遅刻しますよ!?」
「えぇー?」
ルークはブレアの腕を振りほどいて、朝食の用意をしにいく。
ぼーっとルークの姿を目で追っていたブレアは、小さく首を傾げた。
いつも以上にギリギリの時間、ルークが教室に転がり込んできた。
「おはよールークくん。いつも以上に元気だね?」
席に着いたルークに、ヘンリーは苦笑しながら声をかける。
遅刻ぎりぎりなのに、焦っている様子もない。
上の空、といった感じだ。
「ヘンリー……聞いてくれ。」
「はいはい、どーしたー?」
仲直りできた、とかそういう報告だろう。
ヘンリーが頷くと、ルークが嬉々として口を開いた。
「俺、なんと、なんと……!……先輩とお付き合いすることになった!!」
溜めに溜めたルークが、ひそひそと囁いてきた。
大きな声で宣言しそうな雰囲気だったのに、急に声のボリュームが下がった。
大声でキスやら言ってしまったことを、少し気にしているのだろうか。
「えっ……オメデトー。」
「もっと驚いて喜んでくれてもよくないか!?」
ルークにとっては重大発表だったのに、ヘンリーの反応はあまりにもあっさりしていた。
驚いて大声くらい出すと思っていたのに。
「いや……そろそろ付き合ってもおかしくないと思ってたから。」
「え!?俺一生付き合えないと思って絶望してたのに!?」
脈アリだと思っていたなら、そうだと言って元気づけてほしかった。
一生付き合えないだろうがせめて……なんて思っていたのは、ルークだけだったのだろうか。
「だって言ったら調子乗るじゃん。」
「俺のことを何だと……そんなことより俺の恋人可愛すぎるから聞いてくれないか!?」
「流れるようにどころかなんの脈絡もなく惚気!」
話をぶった切るように変えられ、ヘンリーは最早声を出して笑っている。
何かあるとすぐにブレアが可愛いだの綺麗だの言っていたルークだが、拍車がかかってしまったのだろうか。
「俺が告白した時、『うん……。』って顔赤らめてたのが堪らなく可愛くて可愛くて……!抱き締めそうだった、危なかった。」
「よかったね?」
その時のことを思いだしたのか、ルークはぎゅっと心臓の辺りを抑えた。
もう片方の手で口元を覆っているが、にやけているのは隠せていない。
「もう本当に可愛かった……え、天使?俺告白に失敗して死んだ?って思ったよな……。」
「ごめん意味わかんねぇかも。」
「今朝なんていつも以上にぽやぽやしてて、くっついてきて、可愛い~~!!」
ヘンリーは全く共感していないのに、勝手に語っている。
いつもと変わらない気がするが、ルークが幸せそうで何よりだ。
「もう嬉しすぎて実感沸かない……!俺、夢見てるのかって!」
「夢じゃないと思うよ?よかったね。」
念願すぎて、叶うと逆に心配になってくるらしい。
ルークが急に真顔に戻って、ちょっと怖い。
「ヤバすぎる、あの最強の美人俺の恋人なんだぞ……?えぇぇ、俺今日死ぬのかな……?」
ルークが机に顔を伏せると、ゴンッと鈍い音が鳴る。
「生きなよー?結婚するんじゃなかったの?」
ヘンリーが呆れたように聞くと、「する!」と元気よく返事が返ってきた。
付き合えて満足したのかと思ったが、結婚も忘れていなかったようだ。
「結婚するー!俺が養う。俺が稼ぐし家事も全部俺がやる!」
顔を上げたルークが、真剣な顔で言う。
かなり無理のあるスケジュールだが、冗談ではなく本気で言っているようだ。
「ユーリー先輩ヒモになるじゃん……。」
「先輩には魔法とか好きなことだけして伸び伸びと育ってほしい!」
「親?」
まるで子供を相手にしているような台詞だが、一応未来の嫁(予定)の話。
一度うーんと考えたルークは、至って真剣な顔で続ける。
「先輩を働かせると仕事5、魔法5で頭が埋まって俺のことを忘れるから駄目だ。」
「うーん、ごめんルークくん、一応聞くけどマジで付き合ってる?」
全く変わらない――どころかルークの扱いが酷すぎて、とても仲がいいようには聞こえない。
付き合っている、なんなら結婚済想定の話なのに、忘れられるのか。
「付き合ったんだよ!先輩今日はエリカさんのところ行かないだろうし、放課後は実質お家デート……ふへへへ。」
「うん、ルークくんが幸せそうで何よりだよ。」
可愛い彼女の様子を想像しているのか、にやけが止まらないようだ。
変な笑い声を聞いて、ヘンリーは呆れたように苦笑した。
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