第157話 好きな人ができたから変わった、とか?
ブレアは毎日のように放課後をエリカと過ごすし、戻ってくる時間も段々遅くなっている……気がする。
図書室で寝落ちすることもちょくちょくあり、その度にルークが迎えに行った。
大抵ルークが運んでいる途中で起きるし、いつも何だか様子がおかしい。
「――つまり、先輩はすぐ寝ちゃうくらいエリカ先輩を信頼してて、挙動不審になるくらいエリカ先輩のことが好きってことだよな……。」
どうせブレアは今日もエリカと図書室に行くのだろう。
そう思うと、自然と足取りが重くなってしまう。
「そうなのかな?ユーリー先輩なら、誰の前でも寝てそうだけど……。」
隣を歩いているヘンリーが、不思議そうに答えた。
ルークを慰めることは正直諦めているが、ブレアならどこでも寝そうだと思う。
布団を外に持ち出しているくらいだし、休み時間は大抵寝ている、とアーロンが言っていた気がする。
「流石に寝すぎだろ!?眠いなら帰ってくればいいと思う!それに、先輩最近変なんだよ……。」
エリカとよく絡むようになってから――特に、修学旅行以降、ブレアが変だと思うのだ。
突然好きな人ができたと言い出すし、今まで以上によくわからないタイミングで不機嫌になる。
おまけにエリカの名前はすぐに覚えた、色々――仲がよさそうな会話をしている。
変。変だ。間違いなく変だ。
「絶対何かある!おかしい!先輩が変だ!」
きっぱりと断言したルークが、ヘンリーの方を見た。
意見を求められてるようなので、仕方なく考える。
「好きな人ができたから変わった、とか?」
「うわあああああ嫌だあああああ!」
「煩いよ。」
反射的に絶叫するルークの頭を、ヘンリーが軽く叩いた。
上級生である3年のフロアで絶叫とは、中々礼儀知らず――度胸のある1年生だ。
「煩ぇと思ったらお前らかよ。教室まで聞こえてっぞ。」
「煩いのはルークくんだけだよ?」
丁度Sクラスの教室から出てきたアーロンが、呆れたような目を向けてきた。
ルークが叫んだだけで、ヘンリーは全く騒いでいない。一緒にしないでほしい。
「アーロン先輩ぃー!先輩いますか、エリカさんと一緒ですか?そろそろ付き合いましたか?」
「はぁ?付き合うって、何の話してんの?」
縋るように聞かれ、アーロンは面倒そうに顔を顰める。
話の流れ的にブレアとエリカが付き合う、ということだろうが、全くどうしてそうなったかわからない。
「だから、先輩はそろそろエリカ先輩を彼女にして楽しんでるところですかって聞いてるんです!」
「んなわけねぇだろ!?つーか、アイツらの様子をオレが知るわけねぇだろ。馬鹿なの?」
若干ウザいと感じたようで、アーロンは詰め寄って来るルークから距離を取った。
さっきまでアーロンも一緒に話していたかのように聞かないでほしい。
「遠くから見た感じでわかるじゃないですか!あーあの2人いちゃいちゃしてるなぁ、付き合ったかーみたいな!」
「ねぇよ……。大体、アイツはお前が――んなに不安なら彼女にしてこいよって前も言ったよな?」
「無理です!先輩、好きな人ができたって言ってましたもん!」
もはや定着してしまっているルークの振られ芸だが、今は駄目だ。
今まではブレアに好きな人がいなかったので次のアプローチに変えられたが、ブレアに好きな人ができてしまった以上、立ち直れないかもしれない。
「わざわざ教えてくれたってことは『好きな人できたから、もうキモい告白してこないでよ』ってことじゃないですか!」
「うわー……マジか。」
更にルークに詰め寄られたアーロンが、一瞬遠い目をした気がする。
ブレアの精いっぱいのアピールだったのだろう言葉が、ここまで真逆の意味で伝わっているとは。
「お前……そうかそうか。そーなんだなぁ……はぁー、もう知らん。行くぞヘンリー。」
「見捨てましたね!?」
アーロンは小さく溜息を吐くと、ヘンリーの肩を叩いた。
両片想いどころの話じゃない。どうすればここまで拗れるんだ。
「見捨てるに決まってんだろ、どうしようもねぇんだから。気になるなら直接聞け。んじゃー。」
「聞けないから困ってるんじゃないですかー!」
ルークの抗議はむなしく、アーロンはヘンリーを連れてそそくさと帰ってしまった。
仕方なく1人で教室に入り、ブレアの姿を探す。
ブレアは自分の席に座っていて――隣には、水色の髪をした女子生徒。
やっぱり仲がよさそうに話していて、見ているだけで胸が痛くなる。
「……先輩、今日も図書室に行かれるんですか?」
「ああ、来てたんだ。」
そっと声をかけて初めて、ルークに気が付いたらしい。
視界に入らないこともなかったと思うのだが、気が付かないほど夢中で話していたのか。
「いえ!今日はここで、ブレアくんに魔法を教えますの!勿論
「エリカ先輩が教えるんですか?逆では!?」
エリカがさり気なく圧力をかけてくるが、ルークはそっちの方が気になってしまった。
ブレアがエリカに魔法を教えるのはわかるのだが、ブレアがエリカに教わることなどあるのか。
「はい!こう見えて私、いままで凄く魔法を勉強していたのです!色んなところに行って、ブレアくんが驚くような魔法を探したり、自分のスキルを磨いたりしていたのですわ!」
「はぇーすごい。」
嬉しそうに胸を張っているエリカに、ブレアは感嘆の声を上げる。
一見適当に聞こえるが、ルークにはわかる。
(先輩、めちゃくちゃ惹かれてる……!)
惹かれている。これはもう惹かれまくっているに違いない。
根拠は『はぇー。』なんて初めて聞いたからだ。
少し間の抜けた声が可愛すぎる。ルークも言われたい。
「すごいでしょうブレアくん!あなたのために頑張ったんですよ!」
「不登校でも、活発だったんだね……。」
家から1歩も出なかった数年前までの自分を思い出し、ブレアは気まずそうな顔をした。
そこまで意欲があるなら普通に登校すればいいと思うのだが。
「色々頑張ったんです!
「えっ……!」
頬杖をついていたブレアが、ぱっと顔を上げた。
「興味あります!?」
目を丸くしているブレアを見て、エリカが嬉しそうに笑う。
こくりと頷いたブレアが、突然エリカの手を握った。
「ある。教えて、何でもするから……!」
「先輩!」
エリカに詰め寄るブレアを、ルークが一言で制した。
瞳の奥で好奇心がキラキラと輝いていて、惹かれているのが見え見えだ。
ルークが呼んでも止めてくれないし、むしろ手の力を強めているように見える。
「任せてください!というわけで……。」
席を立ったエリカが、ぐいぐいとルークを押して出口に向かわせてくる。
元より立ち去るつもりではあったが、追い出されると悲しい。
「ルークさん、邪魔しないでくださいねっ!」
「しま……せんよ。別に。俺には関係ないですから。」
エリカにひそひそと囁かれ、ルークは静かに目を逸らした。
そうだ、関係ない。ルークとしては気になるが、何も関係ない。
ルークが我慢しているのを見透かしたのか、エリカはくすりと笑った。
「悔しかったら、珍しい魔法の1つや2つでも覚えたらどうでしょう?何の努力もせず好かれようなんて、傲慢ではありません?」
「……そう、ですね。失礼しました。」
やってます、とは言えず、小さな声でそれだけ告げる。
不思議そうに二人を見てくるブレアに礼をして、早足で教室を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます