第156話 ブレアが恋バナ……!?
朝、HRギリギリに登校してきたルークの元気が――見るからになかった。
最近元気がないのが通常になりつつあったが、それ以上にない。
「おはよう、ルークくんどうしたの?」
「大丈夫?体調悪い……?」
ヘンリーと話していたクロエも、心配そうに顔を曇らせた。
2人の姿を見るなり、ルークは「聞いてー。」と泣きついてきた。
「俺……失恋確定したんだ……!」
「「そうなの!?」」
てっきり上手くいっていると思っていたクロエは、かなり驚いている。
ヘンリーはルークが1人で勝手に言っているだけだと思っているので、まだ信じていない。
「失恋って、何があったの?」
「……先輩、好きな人できたんだってー。」
失礼ながら驚いてしまって、クロエは誤魔化すように口元を押さえた。
授業の時、ルーク意外の1年生とも始めよりは話してくれているが、好意を抱きそうには全く見えなかった。
それは2年でも3年でも4年でも、はたまたもっと年の離れた人でも同じだと思うのだが。
「先輩が好きな人いないから俺を好きになって貰おうと思ってたのに、できちゃったならもう無理だろ……。」
「その、ユーリー先輩は誰が好きなのか、教えてくれなかったの?」
顔を伏せたルークの弱々しい声を聞いて、クロエは遠慮がちに聞いた。
人の名前を出されていないのなら、ルークの可能性もあるかもしれない。
「言われてない……けど、特徴は教えてもらった。」
「どんな人?」
暫くの沈黙の後、ルークは小さな声で言った。
「好きなところは秘密って言われたけど……先輩のことが好きで。」
「うん。」
「色んな話をしてくれて――」
「うん。」
言いながら、ルークの声がどんどん小さくなっていく。
思い出しているうちに気分が沈んでしまったのだろうか、今にも消えてしまいそうだ。
「――いつも一緒にいてくれる人……らしい。」
無言で話を聞いていた2人は、困ったように顔を見合わせた。
聞けば聞くほどルークだと思うのだが、違うのか。
「絶対エリカ先輩だろー!?終わった、俺の人生……。」
「人生は言い過ぎじゃない?」
エリカにも当てはまっている――のかは2人にはわからないが、エリカのことなのだろうか。
ルークのことだと思うのだが、下手なことを言える雰囲気ではなかった。
「ねえ、エマ。ちょっと相談があるんだけど。」
HRが終わるなり、ブレアが何だか言い辛そうに声をかけてきた。
「どうしたの?何でも聞くわよ!」
珍しいな、と思いつつ、エマは快く応じる。
相談し辛かったのかもしれないが、エマとしては、どんどん声をかけてほしい。
むしろ、頼って貰えて嬉しい。
「えーと……あのね、告白って……どうすればして貰えるかな。」
「……どうしたのブレア、今更モテたくなったの?」
意外――を通り越して、絶対にブレアの口から出ないような相談だった。
告白なんていくらでもされているし、鬱陶しいと言っていたのに。
「ルークくんに距離を置いてもらったら、一気に増えると思うわよ?」
「そうじゃなくて。」
0にはなっていないとはいえ、ルークが付きまとい始めてからぐっと減っている。
毎日のように呼び出されたり、いつでも手紙を渡されていたが、今はほとんどない。
「誰でもいいわけじゃないんだ。す――特定の相手に、告白されたいの。」
揃えた指先を見ながら話すブレアの頬が、みるみる紅潮していく。
「どうして?」
恥ずかしそうなブレアが可愛らしくて、わざとなんでもないように聞いた。
狼狽えたブレアは、消え入りそうなほど小さな声で言う。
「それは……つ、つきあいたい、から……。」
「ええっ!うっそ、本当!?ブレアが恋バナ……!?」
小さな声で言ったのに、エマが物凄く大きな声を出した。
教室中がざわつくいたのを感じて、ブレアは恥ずかしそうに顔を隠した。
「静かにしてよ。」
「ごめんー、でも、だってだって、きゃー!!」
頬に手を当てたエマは、すっかり乙女気分のようだ。
楽しそうで何よりだが、ちょっと煩い。
「兎に角。そういうわけで、僕は彼に告白されたいんだ。どうしたらいい?」
「どういたらいいって……ルークくんなら、何もしなくてもしてくれるんじゃないの?」
エマがきょとんとして言うと、ブレアは不満そうに眉を寄せた。
「僕が付き合うって決めてから、1回もされてないんだけど。」
それ以前は覚えていないが、少なくとも修学旅行が終わってからはされていない。
全然言ってこないから、遠回しに告白を促してみたり、“付き合う”などそれっぽいワードを口に出してみたのに。
あれだけ匂わせたのに、何でも拡大解釈・過剰反応するルークが、一切反応してこなかった。
「昨日なんて、『好きな人できたよ。』って言ったのに、『そうなんですか……。』って言われたし。」
どれだけ仄めかしても無理なら、と直球に好意を伝えてみた。
なのに何故か散々問い詰められた挙句、『そうなんですか。』で終了。
告白されることもなければ、返事らしい返事もこなかった。
「僕が好きとかどうとか、興味ないのかなあ。」
「ないわけないじゃない!?ブレアがわかり辛いから、ルークくんも困ってるんじゃないかしら?」
少し落ち込んでいる様子のブレアの頭に、エマはそっと手を置く。
よしよしと撫でると、ブレアは静かに目を閉じてもたれかかってきた。
「ん~、リアムにはわかり易いってよく言われる。」
「確かに、わかり易いとこもあるわね。今とか。」
拗ねているように見えて、撫でてもなんの抵抗もしない。
むしろ少し頬擦りしてくるのだから、落ち込んでいるのが丸わかりだ。
「ブレアが好きじゃない好きじゃないって言う癖に口説くから、ルークくんも混乱してるのよ。」
「口説いてない。」
にこにこと笑ったエマが言うと、ブレアはむっと唇を尖らせた。
「一緒に住もうとか色々、脈無しだったら言わないわ。」
「それは彼の魔法のため――」
「そういうところが駄目だって言ってるの。」
エマにびしっと言われ、ブレアは反省したのかしゅんとした。
ずっと一緒にいてほしい、などと言ったのに結局付き合わなかったし、ルークが好意に気がつけなくても無理はない。
「私だって、何度ブレアに誑かされたことか……。手握ったりとか壁ドンとか、普通その気じゃないとしないからね?」
「それは……ちょっと狙った、ごめん。」
正直に白状したブレアに、エマは「いいのよ。」と返す。
始めのほうはそれなりにドキドキしてしまったが、今は本気にしてない。
それでもやっぱり、少しはときめいてしまうのだが。
「拗ねてないで、ブレアからルークくんのこと好きよって言えばいいじゃない。ブレアがもっと積極的に伝えないと、絶対わかってもらえないわよ?」
「嫌だ。負けた気がする。」
告白に勝ち負けなどあるのだろうか。
もしもあっても、先に惚れたのはルークなのだがら、既に勝っているのではないか。
そんなことで悩んでたら、いつまで経っても進まないわよ。
なんて思ったが、ただ「なら、頑張って勝てばいいんじゃない?」とだけ返した。
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