第154話 君のためなら時間作れるし、いつでも付き合うよ?
翌日。土曜日。
「先輩ー、お願いがあるんですけど……。」
流石に休日まで、エリカと図書室に行ったりしないだろう。
ならば予定が開いているのではないかと推測して、ルークは遠慮がちに声をかけた。
「……何?」
ベッドに寝転んでいたブレアは、身体を起こしてルークの方を見た。
ルークは思い切って、リアムから借りたコピーを突き出す。
「これの使い方、教えてください!」
「……それ、僕のだよね。何で持ってるの……。」
ブレアは怪訝そうに受け取り、軽く目を通す。
いつの物か、などの詳細は覚えていないが、間違いなくブレアの物だ。
「反射魔法……。これ使いたいの?」
「はい!なんがすごそうなので!」
キラキラと目を輝かせるルークを見て、ブレアは小さく首を傾げた。
物凄くやる気があるようだが、急にどうしたのだろうか。
ブレアがどうしても無効化魔法を完成させたかったのは、使い道があったからだ。
だが、ルークが反射魔法を使ってやりたいことがあるようには見えない。
「昨日頑張ったんですけど全然できなくて……先輩に教えてもらおうと思いまして……。」
「成程ね。因みにだけど、なんで使いたいのかな。」
少し睨むようにルークを見るブレアは、怪しんでいるのだろうか。
探るような視線を気にしないかのように、ルークははっきりと言う。
「先輩に見せたいんです!」
「僕に……?」
ブレアは拍子抜けしたように、こてんと首を傾げた。
ルークは「はい!」と大きな声で答える。
自信に満ちた答えを聞いて、ブレアはふっと少しだけ口角を上げた。
「いいよ。付き合ってあげる。」
「ありがとうございます!」
ルークが嬉しそうに礼を言うと、ブレアは唇を引き結んだ。
じっと見つめてくる表情は真顔だが、どこか不満そうに見える――気がする。
「あのー、先輩?俺何か変なこと言いました……?」
「……別に。」
不愛想に短く言ったブレアは、ふいと顔を逸らしてしまった。
絶対何かいけないことをした気がするのだが、教えてはくれないようだ。
「いつものとこでいいでしょ。行こ。」
「はい、わかりました!」
立ち上がったブレアが、ルークに論文のコピーを返した。
曲がらないようにファイルに仕舞って立ち上がると、ブレアはもうドアを開けていた。
すぐに出て行ってしまうので、慌てて追いかける。
「先輩、急いでますか?」
普段ならもっとのんびりしている気がするのだが、用事でもあったのだろうか。
「別に、急いでないよ。」
「大丈夫ですか?何か用事があったりしました……?」
他にすることがあるなら、無理に付き合わせるわけにはいかない。
戸惑っているルークを見て、ブレアが少し笑った。
「ないよ。君の魔法見てあげるの久しぶりだから、ちょっと楽しみなんだ。」
「えっ、そうなんで――俺も!俺もすっごく楽しみです!!」
ブレアが楽しみにしてくれるとは思っていなくて、大きな声を出してしまった。
嬉しい。急いでいるのではなく、ちょっとうきうきしているのだろうか。
「……可愛い……!」
「急に何。」
「いえ、何でもありません!」
思わぬところで可愛い一面を見てしまった。可愛い。
頬を赤くしたルークは、さっと手で隠した顔を逸らした。
「さっきから思ってたけど、今更何でそんなに畏まってるの。」
「先輩の貴重なお時間を煩わせているので……。」
困ったように眉を下げたブレアに、ルークは気まずそうに答えた。
もしかしたらエリカと会いたかったかもしれない。
普段エリカと会っている分、1人でやりたいことが溜まっているかもしれない。
そう思ったため、すごく遠慮してしまった。
「はぁ?」
「微妙な返事やめてください。」
間の抜けた声を出したブレアだが、どういう意味なのだろうか。
「そんなこと、気にしなくていいのに。君のためなら時間作れるし、いつでも付き合うよ?」
「え゛っ゛いいんですか!?」
嬉しい言葉に、声が裏返ってしまった。
わざわざ予定を空けてくれるほど、ルークと一緒にいたい――なんて、都合よく解釈してしまってもいいだろうか。
「うん。いいよ。」
薄く微笑むブレアも、少し嬉しそうに見える。
綺麗な笑顔も相まって、脈アリかと勘違いしてしまいそうだ。
「俺も!先輩のためなら1日25時間でも空けます!いつでもどこでもお供しますので!是非!」
ルークが勢いよく言うと、ブレアはぱちぱちと目を瞬かせる。
ブレアは数秒ルークを見つめて、誤魔化すように前を向いた。
「……そ。今度何かあったらお願いするよ。」
「是非!」
ブレアはちらりとルークを見て、呆れたように息を吐いた。
何か駄目だっただろうかとルークが狼狽えているが、ブレアは無視している。
「練習するって言っても、どうしようか。術式は頭に入ってるの?」
「昨日叩き込みました!」
どうせまともに言えないのだと思っていたが、ルークは自信満々だ。
意外と熱心で、ブレアは少し目を丸くした。
「やるね。」
「頑張りましたー!あ、でも一応読みながらやらせてくださいね?」
頑張ったとはいえ、完全に自信があるわけではない。
カンペがあったほうが安心だ。
「いいけど。文字を見るとそっちに思考持っていかれるから、君の頭だとなるべく暗唱した方がいいよ。」
「わかりました……。今から覚え直します!」
さり気なくディスられているのだが、ルークは全く気にしていない。
持ってきたコピーを取り出し、歩きながら読み始める。
熱心に覚えようとしているようで、少し大きな声で術式を呟いている。
ブレアが思っていたより、かなりスラスラと言えている。
真剣な横顔に成長を感じて、少し頬が緩んでしまった。
この調子なら、すぐに使えるようになってしまいそうだ。
「……鈍感。」
「何か言いました?」
小さな声で呟くと、ルークがすぐに顔を上げた。
集中していたのに、聞こえるのか。
「……別に。」
「えー、何ですか!?気になります!」
詰め寄って来るルークを無視して、ブレアは大きく溜息を吐いた。
これは――もっと直球に言わないと伝わらないだろうか。
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