第153話 集中するとどうしても先輩のことが気になる!

 ギリギリまでリアムに相談に乗ってもらったルークは、1つ、目標の魔法を決めた。

 なんとなくすごそうに感じたので、それにすることにしたのだ。


 早速覚えようと、休み時間もずっとブレアの書いた術式を読み込んでいる。

 1時間目なんて授業中も読んでいて、先生に怒られていたくらいだ。

 一番前、それも正面の席なのに、中々度胸がある。


「ルークくん、すっごく頑張ってるね?」


 驚くほどの集中力を発揮しているルークを見て、クロエは感心したように言う。

 ルークが一言も話さず、ヘンリーが暇そうにしていたので、声をかけてみた。


「だねー。マジで危機感あったというか……よっぽど何かしたかったのかも。ロイドさんが提案してくれた案、よかったみたい。」


「少しでもお役に立てたのなら、嬉しいな。」


 クロエが嬉しそうに笑ったのを見て、ヘンリーは「調子いい?」とルークに声をかけてみる。

 ぶつぶつと小さな声に出して読んでいたルークが、音を立ててファイルを机に置いた。


「全っくわからない!どうしよう……!」


「え、今までわかってないのにやってたの!?」


 あんなに集中していたから、てっきりできているのかと思っていた。

 勿論術式は殆ど覚えたのだが、それと使えるかどうかは別だ。

 今のところ、全く使える気がしない。


「クロエちゃんから聞いた時はめっちゃいいアイデア!って思ったんだけど……先輩のお力添えあってこその俺の実力だって改めて気づいたぁ!」


 もっとブレアの役に立ちたい、もっとブレアを喜ばせたい。

 というかそろそろ頑張らないとブレアに捨てられる気がする。

 と2人に相談した結果。


『ユーリー先輩に認めて貰えた?っていうのかな。そのきっかけになったことをもう1回すればいいんじゃないかなあ?』


 というクロエの提案の下、ルークは魔法を習得することにしたのだ。

 ブレアに頼らず、完成を見せて喜んでもらう作戦だったのだが、冷静に考えて無理だった。


「覚えはできるけど、どういう意味かすらわかんないから使えないんだよー!それに集中するとどうしても先輩のことが気になる!」


「それは集中できてないってことなんじゃ……?」


 他のことに意識が向くのは、集中できていないからだろう。

 かなり集中していると思って見ていたが、本当はブレアのことばかり考えていたのだろうか。


「できてる!先輩の存在はありとあらゆる意識を凌駕するから仕方ない!」


「「そうなんだぁー……。」」


 2人に適当にあしらわれているが、ルークは至って真剣だ。

 真剣に、ブレアのことしか考えられない。


「なんとか意味を推測してイメージに繋げようとしても、わかんなすぎていつの間にか先輩のこと考えてるんだ。」


「うーん、もう助からないかも。」


 ヘンリーにもクロエにも苦笑され、ルークは不思議そうに目を瞬いた。


「何か笑い方似てるな!?」


「ルークくんの話聞いてたら、誰でも苦笑いになると思うよ。」


 ヘンリーがますます呆れたような顔をして、ルークはこてんと首を傾げた。

 多少おかしいことを言っている自覚はあるが、そこまでじゃないだろう。


「苦笑いしてないで、この術式の意味とイメージの仕方を教えて欲しい!」


「ごめんね、私には難しいかも。」


 まだ1年生のクロエ達に、高度な魔法は中々難しい。そもそも得意でないから、このクラスなわけだし。


「先に言っとくけど、オレも無理だからね?」


「そっか……じゃあどうすればいいんだよ……。」


 お手上げ状態のルークを見て、ヘンリーは呆れたように息を吐いた。

 諦めて他の魔法にする等、いくらでも手はあると思うのだが。


「素直に、ユーリー先輩に教わったらどうかな?前もそうだったんでしょ?」


「そうだけど……先輩のお手を煩わせたら意味ないんじゃないのか?」


 クロエが優しく提案すると、ルークは困ったように眉を下げた。

 クロエはにこりと笑って、「大丈夫だと思うよ。」と返す。


「2人で一緒に練習した方が、いい思い出になって楽しいと思うよ?ユーリー先輩も、ルークくんに教えるの、楽しんでるんじゃないかな。」


「楽しんでる?先輩が?要領悪いって、いつも怒るのに……。」


 ルークには全く伝わっていないようだが、楽しんでいると思う。

 授業を受けていると、ブレアのことが少しわかってくる気がするのだ。


「そうなの?最初より授業楽しそうにしてるから、意外と教えるの好きなのかなって思ってたな。中でもルークくんにばっかり構ってるし……ルークくんがちゃんとできたら、嬉しそうな顔してるよ?」


「そうなのか……!?」


 クロエが微笑んで頷くと、ルークは嬉しそうに顔を輝かせた。

 ルークは全く気付いていなかったようだが、恐らくブレアも無自覚だと思う。

 それでもほんの少し、笑っているように見える。


「そうだと思う!先輩と一緒にいれて、魔法もできるようになって、一石二鳥じゃないかな?」


「確かに!クロエちゃんありがとう!!」


 よっぽど嬉しかったのか、ルークはクロエの手を握ってぶんぶんと振っている。

 始めからブレアに頼ればいいのに、どうしてこんなに遠慮していたんだろうか。

 エリカの言葉がまだ効いているのか、それとも他に気がかりなことがあるのか……とにかく。


「……ほら、手ぇ離して。ロイドさんが困ってるよ。」


「えっ、ごめん!」


 ヘンリーに注意され、ルークは慌てて手を離した。


「ううん、大丈夫だよ。お役にたててよかった。」


「大丈夫だったらしい。」


 クロエがにこやかに言うと、ルークはほっとしたように息を吐く。

 訂正するような目をルークに向けられ、ヘンリーは大きな溜息を吐いた。

 ブレアには指一本触れられない癖に、クロエにはこうなのは何故だろうか。

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