第152話 先輩が認めてくれたんですから、絶対できます!
放課後、リアムはいつものように魔法創造学準備室で過ごしていた。
コンコンコン、と強めにドアがノックされ、すぐにブレアではないと悟る。
かといって誰かも予想できず、とりあえずドアを開けた。
「リアム先生、エリカ先輩のこと、どう思ってるんですか!?」
ドアの前に立っていたのは、ルークだった。
リアムの姿を見るなり、ルークは大きな声で聞いてくる。
「……どう、とは?」
質問の意図がわからず、リアムは不思議そうに聞き返した。
「先生はエリカさんのこと、信頼してるんですか!?」
「信頼も何も……リリの妹ですからね?」
どういう意図なのかはわからないが、赤の他人よりは信頼している。
直接話したことはそう多くないが、リリカからよく話を聞いていた。
「なら……もし、先輩がエリカ先輩と付き合うってなったら……どう思いますか?」
「ブレアが付き合うんですか?」
遠慮がちに聞くと、リアムは少しだけ目を丸くした。
ルークは「もしもの話です!」ときっぱりと否定する。
「もしもそうなったら、兄としてはどう思うのかなーって、気になったんですよ!」
「別にいいと思いますが。」
リアムがやんわりと答えると、ルークが悲しそうな顔をした。
正直に答えただけなのに、何だか申し訳なくなる。
「可愛い妹を任せられませんとか言わないんですか!?」
「言いませんよ。私ってそんな印象ですか?」
リアムが困ったように笑うと、ルークはすぐに頷いた。
すごくそんなイメージだ。絶対言うと思っていた。
「なんなら先輩に彼氏ができることを絶対に許さなそうだと思ってました。」
「私のこと、何だと思ってるんですかね。」
真面目な顔で言われ、リアムは不快感を誤魔化すように笑みを作った。
「ただの義兄に、そこまで口出しする権利はありませんよ。」
「俺と先輩が同室になる時は、めちゃくちゃ反対したじゃないですか!」
「常識的に考えてください。明らかによくないことは注意します。」
少し厳しい口調で言うリアムは、まだ根に持っていそうだ。
ルークも最初は駄目だと思っていたが、気づいたら当たり前になっていた。
冷静に考えてみれば、確かによくない。
「話はそれだけですか?」
「話はそれだけなんですけど、用はまだあります!先生、今日は何時くらいまでここにいますか?」
リアムが終わらせようとしてくるので、ルークは少し早口で切り出した。
そんなことを聞いてどうするのだと思いつつ、回答を考える。
「今夜はリリと約束がありますので、5時くらいですかね。」
「彼女ですよね!?ラブラブそうで羨ましいです……!いいなー俺も彼女欲しい。」
少し嬉しそうに言うリアムは、彼女と仲が良さそうで何よりだ。
ルークが呟くと、リアムは呆れたように眉を下げた。
「……なら、ブレア以外でどうぞ?」
「それは嫌です!!」
誰でもいいわけじゃない。探せば他にもいい人がいるかもしれないが、ブレアに出会ってしまった以上、他の人のことは考えられなかった。
“可愛い
今は――“
「それで、ご用件は?」
ルークは少し迷うように視線を彷徨わせてから、じっとリアムの目を見た。
さっきよりもさらに真剣な顔で、口を開く。
「先輩の論文とかレポートを見せ――」
「駄目です。」
まだ最後まで言っていないのに、短く拒否されてしまった。
「この間、先輩がエリカ先輩に見せるって言ってました!」
「本人が見せる分には問題ないんですよ。ディアスさん、ブレアから許可をとりました?」
呆れたように言われ、ルークは大人しく首を振った。
勿論取っていないければ、そもそも言ってすらない。
「だいたい、何のためなんですか?」
ルークの頼みが珍しく、リアムは念のため聞いた。
ブレアやエリカなら勉強のためと望みそうだが、ルークはそうは見えない。
「先輩の考えた魔法を、何でもいいので覚えたいんです!」
何でもいいと言うことは、目的の用法があるわけではないのだろう。
ならば、何故覚えたいのだろうか。
「先輩が考えた魔法には、理論だけで、実践はされていないものがありますよね?」
「そうですね。それを覚えたいんですか!?試していない、ということは、ブレアでもできなかった、ということなのですが……。」
だから、ルークでも無理だろう、と言いたそうだ。
それくらいわかっているが、ルークは「できます!」ときっぱりと答えた。
「無属性魔法なら、頑張ればいけると思うんです!先輩が認めてくれたんですから、絶対できます!」
難しいだろうが、ブレアのためにできることを考えた時、これしか思い付かなかった。
「俺は魔法下手ですし、詳しくもないです。だからこそ、少しでも先輩のお役に立ちたいんです……!」
エリカのように、ブレアが楽しめる魔法の話はできない。
アーロンやヘンリーのように、ブレアが興味を示すような、すごい魔法が使えるわけでもない。
ならば、ルークがブレアのためにできることはこれだ。
「もし、できないと思ってた魔法ができたら、絶対喜んでもらえると思うんです!」
真剣な瞳にまっすぐ見つめられ、リアムは驚いたように目を丸くした。
ふっと笑みが零れて、誤魔化すように顔を逸らした。
「……そういうことなら、実践が伴っていない無属性魔法を、いくつか探してみましょうか。」
「えっ、いいんですか……!?」
まさか許可がでるとは思っておらず、ルークは拍子抜けしたように聞く。
リアムは呆れたように溜息を吐くいた。
「そろそろ履修登録の時期ですし、魔法創造学について理解する、という名目なら問題ありません。」
そもそもブレアの物の一部は外部にも公開しているため、ここでなくても読めるのだが。
本当は、学習目的なら他の生徒に見せて構わない、と、ブレアからも許可を得ている。
「でも俺、そういう目的じゃ――」
正直に否定するルークを、リアムは柔らかく細めた目で見た。
「気にならないんですか?ブレアが普段、どんなことをしているのか。」
「――っ!めちゃくちゃ気になります!」
一気に顔を明るくしたルークを見て、リアムがクスリと笑った。
わかりやすくて、つい笑ってしまう。
「なら、決まりですね。いくつか持ってきますので、ひとまずあそこに置いてあるレポートを見ていてくれますか?」
「はい!ありがとうございます!」
ブレアでも実践できない、となるとどれくらい難しいのかわからないが、何度も練習すればできるようになる――と、信じたい。
ちゃんと扱えるようになったら、すぐにブレアを見せよう。
そうすれば、喜んでくれるだろうか。
すこしわくわくしながら、机の上に置いてあった分厚いファイルを開いた。
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