第151話 あの子って、昔から魔法得意だったの?
職員会議を終えたリアムは、少し急ぎ足で魔法創造学準備室へ向かった。
普段ならちゃんと施錠するのだが、今日はしていない。
居残って作業している生徒がいたため、そのまま職員室に戻ったのだ。
(終わったら鍵を返しに来てください、と頼んだはずですが……。)
先程確認すると、鍵が返ってきていなかった。
まだ使用しているのか、はたまた施錠し忘れて帰ってしまったのだろうか。
どちらにせよ、早く戻って様子を見るべきだろう。
最近、ただでさえ忙しいのに、正直に言って面倒だ。
そう思って、少し焦ってドアを開けたのだが――
「……ブレア。無断で入るのはやめてくださいと、いつも言っていますよね?」
「えぇー、いないのが悪いでしょ。」
当該の生徒はおらず、変わりにブレアがいた。
軽く注意すると、ブレアは当然のように暴論を投げてくる。
「これでも忙しいんですよ。貴女のためにどうにかして時間を作っているの、わかってます?」
「はいはいありがとー。」
「せめて少しくらい感情を込めてはどうですか。」
棒読みのブレアに近づくと、リアムは溜息を吐きながらブレアの髪に触れる。
そのまま撫でていると、ブレアが困ったように顔を顰めた。
「子供扱いしないで。」
さっと手を払われたリアムは、ブレアの顔を見てクスリを笑う。
そのままその手を、ブレアの頬に触れさせた。
「少し笑っていたの、見てましたよ。」
「それは……くすぐったかったの。」
むっと唇を尖らせたブレアは、ふいと顔を逸らした。
嬉しそうだった癖に、素直じゃない。
「可愛いですね。」
「煩い。」
リアムが再びブレアの頭に手を置くと、ブレアは気まずそうに俯いた。
今度は何も言われなかったので、肯定とみなして撫でる。
「……リアムお義兄様、本当にブレアくんと仲良しですのね!」
「エリカさん!?来ていたんですね。」
声を掛けられて初めて、ブレアの奥にエリカがいたことに気が付いた。
リアムは慌ててブレアから手を離し、誤魔化すように咳払いをした。
「はい!お邪魔しております!」
「ブレアと仲良くしてくださってありがとうございます。ですが準備室に立ち入る時は、私の許可を取ってからにしてくださいね。」
にこりと笑ったリアムが言うと、エリカは「はい!」と元気よく返事をした。
全然気が付かなかった。危ない。
ブレアはというと、何やらリアムに抗議の目を向けている。
「……何か、僕の時と対応が違う。」
不満そうなブレアに、リアムは当然のようにさらりと言う。
「勿論違いますよ。貴女のことは、何よりも愛していますから。」
「またそういうこと言う。恥ずかしくないの?」
柔らかく微笑んだリアムを見て、ブレアはぷいと顔を背けてしまった。
「贔屓だ。」などと呟いているが、やっぱり嬉しそうだ。
「お姉さまが不安になる理由が、よくわかりましたわ……。」
エリカがぽつりと呟いたのを聞いて、リアムははっとしたように笑みを崩した。
完全に失言だった。
「違うんです、ブレアは可愛い義妹で、リリのことも本当に愛していますよ!今のは――」
「わかっていますわ。こんなに焦っているリアムお義兄様、初めて見ました。」
にこにこと笑ったエリカに見つめられ、リアムは気まずそうに苦笑した。
リアムがこんなのだから、ブレアが敵対されるのだろう。
ブレアが密かに抗議の目を向けていると、リアムは不思議そうに小さく首を傾げた。
「そんなことよりエリカさん、暗くなってきましたし、あまり遅いとリリが心配しますよ?」
「わかりました!」
誤魔化すようにリアムが言うと、エリカははきはきと返事をした。
ブレアは寮に住んでいるため遅くなっても気にならない。
しかしエリカはそうではないため、暗くなる前に帰った方がいいだろう。
「もっとブレアくんとお話してたかったですー!」
「今度ね。」
名残惜しそうに言ったエリカは、ぎゅっとブレアに抱き着く。
すぐに離れると、「失礼しました。」とリアムに挨拶をして出て行った。
「随分仲がよろしいんですねえ。」
「うーん、始めは嫌だったけど、今は意外と。」
ブレアが仲良くできるか不安だったが、ちゃんと交流できているようだ。
子供の頃は完全に塩対応で、殆ど無視していたようだが。
ブレアも成長したのだろうか。
「何をしていたんですか?」
リアムは書類整理を始めながら聞くと、ブレアはエリカが見ていたファイルを開いた。
「あの子が僕の論文読みたいって言うから、見せながら話してた。」
「エリカさんが魔法に詳しくて、よかったですね。」
ブレアが薄く微笑んだのを見て、リアムはかなり嬉しくなった。
流石にブレア程ではないだろうが、エリカは中々魔法に詳しいようだ。
対等――とまではいかずとも、ブレアでも満足に魔法の話ができたのではないだろうか。
「うん。楽しいよ。……ねえ、ちょっと聞いてもいい?」
ブレアは少しだけ顔を上げて、薄く微笑んだ。
リアムが「どうしました?」と聞くと、少し考えてから口を開く。
「あの子って、昔から魔法得意だったの?」
突然、どういった意図の質問だろうか。
リアムは不思議そうに、わからないまま記憶を辿った。
「どうでしょうね……?魔法の勉強を頑張っている、という話は、リリからよく聞いていましたが。」
「そっか。」
リアムの答えを聞いて、ブレアは深く頷いた。
「気になったことは、わかりました?」
「うーん、まあまあかな。」
適当に答えたブレアは、すぐに本に視線を落とした。
もし、エリカが昔から魔法のことをよく知っていたとすれば――ブレアはどうして、彼女のことを殆ど覚えていないのだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます