第150話 俺は、エリカ先輩が想像してるよりずっと、先輩のこと想ってます!!
今日もブレアは図書室へ行ってしまったが、尾行はしなかった。
アリサもいないし、行っても何もできないことに気づいてしまったからだ。
無駄にダメージを負うだけなので、行かない。
ブレアの帰宅時間を予測して、ヘンリーと別れて寮に戻ってきたのだが――。
「――先輩、全然帰ってこない!」
普段なら6時頃に帰ってくるはずのブレアが、7時を回っても姿を現さなかった。
……おかしい。絶対におかしいと思う。
心配なので、迎えに行くことにした。
『もし帰ってくるのが遅かったら、迎えに来てくれる?』
と、先日ブレアも言っていたし、これは邪魔にはならないだろう。
そう自分に言い聞かせて、図書室を目指す。
「……行ったら決定的な浮気現場とかだったらどうしよう……。」
心配、ブレアに会いたい、話したい、と行きたい理由は山ほどある。
一方で、正直に言うと、ちょっと行きたくなかった。
昨日思ったのだが、ブレアはエリカのことが好きなのではないだろうか。
名前で呼ぶし、話も合って楽しそうだった。
2人のことを考えると、昨日の意味深なやりとりが浮かんだ。
「完全にそういうやつだろあれ……。しかも、先輩から誘ったとか……。」
信じたくないが、ルークにはそうとしか考えられなかった。
ブレアは思わせぶりな態度が多い、と言えばそうだが、あれは完全に黒だろう。
アリサもそう感じたようだし、そうに違いない。
「……付き合うのかな。」
それなら、その可能性だってあり得る。
すぐに、「彼女ができた。」とブレアに言われるのだろうか。
それとも、ブレアなら何も言ってくれないだろうか。
図書室のプレートが見えて、一瞬、引き返そうかと思った。
――もし2人が付き合ったら、邪魔だよな。
と思ってしまったからだ。
付き合えなくてもいいから傍にいたい。どんな形でもいいから隣にいたい。
その想いは本気だが、ブレアにとって、ルークが傍にいる意義など、ないだろう。
これまで通りに接することも、迷惑だろうか。
「――それは!実際に先輩が付き合ってから考えよう!」
気を取り直して図書室の方へ進む。
これまで彼氏も彼女もいなかったらしいブレアが、突然付き合うとは思えないし、大丈夫だろう。
ドアを開けると、やっぱり殆ど人がいなかった。
流石にこの時間まで残っている人は殆どいないようだ。
「先輩ー?迎えにきましたよー?」
小声で呼びかけながら進むと、いくつもある自習用のテーブルの、一番奥の席に2人の姿があった。
ブレアの様子を伺っていたエリカが、ルークに気づいて顔を上げる。
「何かご用ですか?」
「……先輩が遅いので、迎えにきました。」
静かに見つめられ、若干体が強張った。
真剣な顔で言うルークを見て、エリカはにこりと笑う。
「そうですか。ブレアくん、疲れたのか寝てしまったので、丁度よかったです。」
エリカの言う通り、ブレアは机に顔を伏せていた。
寝るなら帰ってくればよかったのに……などと思ったが、文句は言わない。
「送って差し上げたかったのですが、それも難しいので困っていましたの。」
言いながらエリカは、ブレアの長い髪に指を通す。
ぐっすり眠っているのか、全く反応を示さない。
「……先輩は俺が責任を持って送り届けますので、エリカ先輩は帰宅なさってください、失礼します。」
素早くブレアの傍に行ったルークは、起こさないようにそっと抱き上げる。
自分勝手だが、エリカに触られるのが嫌で、少々きつい言い方になってしまった。
「私もご一緒しますが?あなたが寝ているブレアくんに何かしないか不安です。」
「……俺、先輩と同室なんですが。」
そのまま出て行こうとしていたルークは、エリカの方を振り返った。
ルークのシトリンの目が、かなり怒っているように見える。
「約半年間一緒にいて、先輩の寝顔だって何時間でも見てきましたけど、そんなこと1回もしてませんっ!」
低い小声で言っていたルークの声が、弾かれたように大きくなった。
「付き合ってもないのに。先輩の気持ちなんて、全くわからないのに。――大好きな人を、傷つけるかもしれないのに……俺自身のためだけに、できるわけないじゃないですか!俺の方が――俺は、エリカ先輩が想像してるよりずっと、先輩のこと想ってます!!」
ルークは吐き捨てるように「失礼します。」ともう一度、きっぱりと告げる。
エリカの返事を待たずに、ブレアを抱きかかえたまま走り出した。
図書室を出ても暫く走っていたルークは、突然足を止めた。
(……今、めちゃくちゃやらかしたんじゃ――!?)
頭が冷えてきて、自分の行いを後悔した。
よくわからない怒り方をしてしまった。
八つ当たりどころではないではないか。
「しかも何かすっごいえっちなことやりたがってる人みたいになってないか!?いや、実際したいんだけどそうじゃなくて……!」
エリカにどう思われただろうか。ブレアが寝ていてよかった。
ぐるぐると目を回して考えていると、ブレアが少し動く。
「……ん、ぅ~。」
「あっ、すみません!煩かったですか?それとも揺れてました!?」
ゆっくりと目を開いたブレアを見て、ルークは慌てて謝る。
かなりぐっすり眠っていたようなのに、起こしてしまった。
ぱちぱちと目を瞬いたブレアは、ぼやけた視界でルークを見て――一気に目を覚ました。
「――やっ!何……どういう状況!?」
「暴れないでください!危ないですよ!?」
起きるとお姫様抱っこされている状態だったら、誰だって驚くだろう。
かといってあまり動かれると、落としそうで危ない。
何とかバランスを保ったルークは、優しくブレアを着地させた。
「……びっくりした。」
「すみません……。」
ふっと息を吐いたブレアは、両手で頬を覆った。
手のひらがひんやりと感じられて、誤魔化すように腕を組む。
「それで、どういう状況?」
「先輩が全然帰ってこないので、迎えに行ったんですよ!そしたら図書室で寝てたので、連れて帰ろうとしてました。」
荷物は部屋に置いてあったので、何も問題はないはずだが。
ブレアはぎゅっと眉を寄せて、不快そうな顔をした。
「僕は放課後にエリカと図書室に行って、そこで寝落ちして、君に運ばれてた……てことで、合ってる?」
「そうですけど……。」
どうしてそんなに細かく確認するんだろうか。
肯定はするものの、どこか引っかかる。
顎に指を添えて考え込んだブレアは、困ったように目を閉じた。
「……やっぱり、そういうことなのかな……。」
「どういうことですか?」
ぽつりと呟いたブレアに、ルークは首を傾げて問いかける。
しかし、ブレアは誤魔化すように小さく首を振った。
「こっちの話。気にしないで。」
話は終わり、とばかりに言い切るブレアだが、何を思ったのか聞かせてほしい。
全くわからないが、なんとなくもやもやした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます