第147話 んなに不安なら、彼女にしちまえば?
HRが終わるなり、ルークは走って寮に戻ってきた。
早口で鍵を解除し、ドアを開ける。
「ただいまです先輩!」
「……お帰り。」
大きな声で言ったルークは、ブレアの姿を見て顔を輝かせた。
「先輩っ!ただいまです!会いたかったです!ああ、先輩がいる……最高、幸せ、無理……!」
「いるけど、普通に。」
ブレアは当然のように言うが、ルークにとってはすごく嬉しいことなのだ。
久しぶりのブレアがいる放課後が嬉しくて、いつもより更に早く走って来てしまった。
「お昼はちゃんと食べましたか!?」
「……うん。」
小さな声で答えたブレアは、気まずそうに目を逸らした。
まさか食べていないのだろうか。それとも、まだ夜中のことを気にしているのだろうか。
あの後ブレアは本当にそのまま眠って、日付が変わる頃に目を覚ました。
『起きました?』と声をかけた瞬間魔法で殴られた。理不尽。
寝てしまったことが恥ずかしかったのか、反射的に魔法を使ってしまったことが申し訳ないのか。
詳しいことはわからないが、とにかく少しよそよそしい気がする。
「今日は何されるんですか!?」
それでも、ブレアがいるだけで嬉しくて、ルークは嬉々として聞く。
「今日も図書室。あの子が行きたいんだって。」
「あー……そうなんですか。」
見るからにルークのテンションが下がり、ブレアは不思議そうに首を傾げた。
「どうかした?図書室行くの、嫌かな?」
「いえ、そういうわけじゃないんですけど……。」
心配するようにブレアに顔を覗き込まれ、ルークはさり気なく目を逸らした。
ルークの様子を気にしつつ、ブレアは魔法で制服に着替える。
長い髪をさっとかき上げると、「行こ。」とルークに声をかけた。
「あ、いえ、俺は……いいです。」
「来ないの?」
「はい。」
ルークが小さく返事をすると、ブレアが顔を近づけてきた。
じっと怪しむように見られている。
「何で。」
「え、ええーと……ヘンリーと遊ぶ約束してまして!」
気圧されたルークは、答えながら少し後退る。
じっとルークを見つめていたブレアは、ぱっと離れると、小さく息を吐いた。
「ふーん。僕のこと大好きなのに、遊ぶ約束したんだ。」
「ぐっ……、勿論大好きです、愛してます。誰より大事です……。」
ルークは即座にその場に正座する。
再びベッドに腰を下ろしたブレアは、組んだ足に肘をつき、冷たい目でルークを見下ろした。
「――で、続きは?何か言うこと、ないの?」
「申し訳ありません……!」
ルークが深々と頭を下げると、ブレアは一瞬目を丸くする。
それから不機嫌そうに眉を寄せると、倒れ込むように寝転がった。
明かりが眩しかったのか、微かに顔を顰めて、腕で目を隠してしまった。
「……もういいよ。いってらっしゃい。」
「先輩は?寝るんですか?」
また寝ようとしているが、エリカに会うと言っていなかっただろうか。
「もうちょっとしたら行く。じゃあね。」
「わかりました、いってきます。」
何度も別れの言葉を告げられると、追い出されている気分になる。
ブレア素っ気ない気がするのだが、気のせいだろうか。
もやもやしつつ、ルークは仕方なく部屋を出た。
ブレアの様子が気になりはするが、ルークはヘンリーの部屋に来ていた。
「……それで、
「……逃げてきました……。」
ヘンリーに冷たい目で見られたルークは、何故か敬語で肯定した。
「情けねぇなお前。」
「すみません。」
アーロンにも呆れたような目で見られ、ルークは深々と頭を下げる。
ヘンリーの部屋に遊びに行くと、ルームメイトは不在で、変わりにアーロンがいたのだ。
「マジで情けないよルークくん。3日連続コレって、有り得なすぎる……。」
そう、なんとルークは3日連続でヘンリーを言い訳にして、ブレアから逃げた。
日に日にブレアの不機嫌度が増していっている気がする。
そのせいで、余計に顔を合わせづらくなってしまった。
「しょうがないだろ!1人で部屋で待つとか無理なんだよ!先輩今頃何してるんだって気になって気になってしょうがない!何時に帰ってくるかもわからないから不安だし!」
「ここにいても気にしまくってるじゃん。」
昨日もその前も、ずっとブレアのことを気にして凹んでいた。
あの様子なら、どこにいても同じだと思う。
修学旅行中も面倒だったが、今もいい勝負だ。
「それはそうだけど!行かない言い訳がヘンリーくらいしか思いつかないんだよ!ヘンリーが駄目ならクロエちゃんくらいしか……。」
「ロイドさんに迷惑かけない!」
エリカに言われたから、と説明するのも嫌だし、だからといって『行きたくないから。』なんて口が裂けても言いたくない。
となると予定があることにするしかないが、ルークがありそうな予定など、ヘンリーと遊ぶくらいしかない。
「嘘はよくないってわかってるし、罪悪感でいっぱいだけど、先輩のためだから……せめて嘘じゃなくなるように一緒にいてくれ。頼む!」
「面倒臭ぇなコイツ。」
アーロンがあからさまに顔を顰めると、ルークはしゅんと項垂れた。
「行きてぇなら行けばいいじゃねえか。」
「行きたいですけど、ただの友達の癖に束縛強いって思われたくないんですー!」
行けるものなら勿論ついて行きたい。本音を言うと、エリカと仲良くなってほしくない。
けれどブレアの邪魔をしたいわけではない。
「ウジウジすんなよダセェなぁ。行けよ。」
「無理ですよ!先輩には自由に生きてほしいんです!」
大袈裟なルークに、アーロンはますます顔を顰めた。
何だか壮大なことを言っているが、もっと小さな話題ではなかっただろうか。
「2人揃って面倒臭ぇな。んなに不安なら、彼女にしちまえば?」
アーロンが軽い気持ちで言うと、ルークが勢いよく顔を上げた。
「アーロン先輩はいいですよね、軽く簡単に彼女作れて!!」
むっとして言うルークに、何となく敵対されている気がする。
「告ってみたら、案外さらっと付き合ってくれんじゃねーのー?」
「無理ですよ、先輩の鉄壁ぶりをご存じない!?」
ブレアがそんな簡単に了承してくれるわけがないことは、アーロンもわかっているはずだ。
何度告白しても無理だったから、こうなっているのだ。
「お前最近付き合ってくださいって言ってねぇじゃん。試してみればいいのに。」
「可愛い、綺麗、好きはちゃんと言ってます。」
姿勢を正したルークは、きっぱりと言った。
確かに告白はしていないが、愛はちゃんと伝えている。
「何で告白しないの?」
「だって……好きでもない男に何度も言い寄られたら、ウザくないですか!?」
「「あー。」」
真剣な表情で言うルークを見て、兄弟は揃って微妙な顔をした。
最初はあんなに熱烈にアプローチしていたのに、今更そんなことを言うのか。
最初はよかったが、今は駄目らしい。
ルーク基準はルークにしかわからない。
「もう知らねぇ。いつまでも付き合えなくても仕方ねぇわ。」
「何でそんなこと言うんですか!」
さりげなくいい方向に進むようにしたのに、アーロンの気遣いは無駄になりそうだ。
投げやりに返すと、ルークは悲しそうに抗議した。
ブレアが完全に受け身の姿勢を取っているのに、ルークがこんな調子では、何も進まない。
惜しいなぁ、とアーロンは内心で苦笑した。
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