エイプリルフール特別編2 ユーリー先輩……です、よね?
珍しく上機嫌で歩いている――髪の短いブレア。
隣にいるのは、落ち込んでいる様子のアーロン。
色んな意味で目を惹く光景だった。
勿論、ものすごく見られている。
「お前さぁ、見られんの嫌なんじゃねえの?」
「嫌だよ。」
短く答えたブレアは、はっとして言い直す。
「あ、間違えた大歓迎。どんどん見て。」
「はい嘘~。真逆のこと言っときゃ嘘になると思うなよ。」
一瞬で見破られ、ブレアは「バレたか。」と少しだけ微笑んだ。
アーロンだって真逆のことを言っただけなので、人のことは言えないが。
「あ、あれ弟さんじゃない?」
「は?マジで!?」
「嘘。」
ヘンリーの名前を出すと、簡単に引っかかった。
単純だね、とブレアは愉快そうに笑いを堪えている。
「何だよ……しょーもねー嘘吐くな。」
ちょっと期待したアーロンは、残念そうに言う。
ブレアは溜息交じりの言葉も聞かずに、今度は前方を指さした。
「あ、あれ弟さんだよ。」
「嘘嘘。」
2回も引っかかるわけがないだろう、とアーロンは呆れたように顔を顰める。
ヘンリーのことなら、IQが2になるとでも思っているのか。
「本当に。見てよ。」
「はいはい見ますよーっと……マジじゃん。何でいんの?」
アーロンが仕方なく前方に目を向けると、本当にヘンリーがいた。
廊下に続く角を曲がってきたばかりのようで、こちらに歩いてくる。
いつもなら3ーSの教室で待っている頃だが、何故渡り廊下にいるのだろうか。
しかも――女子と。
「は?オレの弟が女連れてんだが。誰、彼女!?」
「んふ、ブラコン……。」
ブレアはアーロンの反応を見て、馬鹿にしたようにくすくすと笑っている。
そんなことも気にせずに、アーロンは早足でヘンリーに近づいた。
隣を歩いている女子生徒――クロエと話してしたヘンリーが、ようやく兄に気づいて足を止めた。
「あれ、兄貴じゃん。」
「よ。ヘンリーが女子と一緒にいるとか、珍しいじゃねえか。」
平静を装って、探るように聞いてみる。
冷やかしか……と、ヘンリーは面倒そうに眉を寄せた。
「教室では普通に喋ってるよ?」
ヘンリーが素っ気なく返すと、アーロンは煽るようににやりと笑う。
「2人きりはなくねー?彼女……はオレが聞いてないからないとして、その子のこと好きとか?」
「ち、違います!ヘンリーくんは、私の日直の仕事を手伝ってくれただけで……!」
クロエは一気に顔を赤くして、焦ったように訂正した。
日直は自分なのに手伝ってもらっている。
ただでさえ申し訳ないのに、変な誤解を生んでしまった。
「ロイドさんの言う通り。日直で、コレ職員室に持ってくだけだから。」
呆れたように溜息を吐いて、ヘンリーは抱えているノートの山を示す。
「ふーん。でも倍くらい持ってやってんじゃん。優し~痛っ!?」
ヘンリーは面倒になったのか、茶化すように言ってくる兄の足を蹴った。強めに。
「煩ー。兄貴だってさっき女子と一緒にいたでしょ、ほら、今後ろにいる人……え?」
ブレアの方に視線を移動させたヘンリーは、その姿を見て固まった。
「やほー。お兄さんと一緒にいる女子
面白くなったのか、ブレアは真顔で告げた。
言動とテンションが全く合っていないブレアを、ヘンリーは驚いて見つめる。
銀色の髪に、アメシストのような瞳。整った顔。
華奢で細身の身体。
女子にしては低めの声、女子ではなく女子
「え……ユーリー先輩……です、よね?あの、髪……どうしたんですか?」
髪が短いが、それ以外の特徴はブレアと一致している。
そもそも銀髪は珍しい。ブレア以外で見たことはない気がするのだが――。
「そ。イメチェンしてみたの。」
小さく頷いたブレアは、短くなった髪に細い指を通した。
何も言ってこそないが、クロエもかなり驚いている。
じっとブレアを見ていたヘンリーは、丸くしていた目を一度閉じる。
すーっと息を吐き出すと、焦ったような顔でアーロンを見た。
「兄貴何かしたの!?」
「何でだよ。真っ先にオレを疑うんじゃねぇ!」
何の迷いもなく疑われ、アーロンは不満そうにツッコむ。
どれだけ信用がないんだろうか。
「でも、君が言ったからだから間違ってはないよね?」
「それは……そうだが……。」
アーロンが渋々肯定すると、ヘンリーの視線が一層冷たくなる。
ブレアは切りたくなかったのに、アーロンのせいで渋々切った、もしくはアーロンに切られたと思っているのだろう。
「兄貴最低……その長さから戻るのなんて、絶対めっちゃ時間かかるよ?ですよね?」
「いや、大丈夫。5、6年くらいあれば戻るんじゃないかな。」
ブレアが髪を伸ばしていた時のことを思い出しながら答える。
前はセミロングからあの長さにしたので、実際はもう少しかかるかもしれないが。
「全然大丈夫じゃないですよそれ!兄貴、ちゃんと謝ったの?」
「謝っ……てねぇな。」
謝った、と答えようとしたが、よく思い出してみれば謝っていなかった気がする。
悪いとは思ったが、焦っていた。
「謝れ!」
「ごめんなさい。」
ヘンリーに大きな声で言われ、アーロンは反射的に謝る。
棒読みで全く気持ちが籠っていないが、まあよしとする。
「ユーリー先輩、今からルークくんと会いますよね?」
「うん。」
ブレアが当然だと言わんばかりに頷くと、ヘンリーは困ったような顔をした。
ルークはロング派だった気がするので、短くなったことにショックを受けるかもしれない。
で、その後新鮮なブレアの姿に興奮して収拾がつかないほどはしゃぎそうだ。
「……なら、頑張ってください……。」
「うん、頑張る。」
呆れたようなヘンリーに言われ、ブレアはよくわからないまま頷いた。
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