第134話おまけ 彼氏のマフラーみたいじゃないですか……!

 暫く待っていると、厚手のコートを着たブレアが戻ってきた。

 蹲っているルークを見て、呆れたように眉を下げる。


「彼は何してるの。」


「私に聞くの?嬉しすぎたんですって。」


 ブレアが軽く頭を小突くと、ルークは勢いよく立ち上がった。

 ――ものの、ブレアの姿を見て、再び崩れ落ちた。


「先輩、可愛すぎますっ!」


「はぁ。」


 凝視してくるルークにどう反応すればいいのか困り、適当に相槌を打った。


「コート似合ってますね、可愛いです!マフラーももう1つ持ってたんですか?シックな感じも大人っぽくて素敵です!」


「ああ、これはリアムの。さっき会って、『ちゃんと暖かい恰好しなさい。』って貸してくれた。」


 貸してくれた、というより押し付けられた、の方が正しいかもしれない。

 風邪は引かないと言っているのに、少々過保護だ。


「先生のですか……妬けます。」


「何に。」


 ルークはブレアを見て、むっと眉を寄せた。

 勿論リアムに妬いている。

 当然のように貸しているのも羨ましいし、メンズ用なのにちゃんと似合っているのも妬ける。


「彼氏のマフラーみたいじゃないですか……!」


義兄あにだけど。」


「わかってます。」


 忘れたの?とでも言いたそうなブレアだが、勿論覚えている。

 覚えていても尚そう見えるから妬いているのだ。


 そもそもルークの主観では義兄もアウトだ。

 距離が近すぎるし、ブレアはリアムにべったりなので、何なら実兄でも嫌だ。

 ただの我儘だと自覚しているが、嫌なものは嫌なのだから仕方がない。


 ルークはブレアに近寄ってそっとマフラーの端を掴む。


「え……何。」


「せめて巻き直させてください。」


 ブレアは了承していないのに、既にブレアのマフラーを解き始めている。


「巻き直して何になるのかな。」


「完全に俺の自己満足です。」


 するすると解くと、左側を伸ばして整える。

 手早く巻き直すと、満足気にブレアを見た。


「どうですか!」


「すごい!すっごく可愛いわ!」


 ブレアが自身の姿を見下ろしている間に、エマが顔を輝かせた。

 かなり凝った巻き方をされていて、大きなリボンの形になっている。


「可愛い!すごく可愛い!素敵!ルークくんすごいね!」


「こういうのは慣れてますから!」


 きゃっきゃとはしゃいでいるエマに、ルークは得意気に胸を張る。

 居心地悪そうにリボンの端を弄んでいたブレアは、小さく溜息を吐いた。


「これは……ちょっと、可愛すぎないかな。」


「可愛いからいいんじゃない!アーロンくんに写真撮ってもらいましょー!」


 エマがぎゅっと抱き着くと、ブレアは困ったように顔を顰める。


「僕、顔は綺麗だけど可愛らしいって感じじゃないし。そもそも女の子じゃないかもしれないし……。」


「先輩は最高に可愛らしいですが!?」


 恥ずかしそうに俯くブレアに、ルークが真剣な顔で言う。

 ルークから見れば顔は綺麗と自覚していることも、その仕草も最高に可愛いのだが。


「こういうのは僕じゃなくて、エマみたいな可愛い子じゃないと……。」


「え、私なの?」


 ルークの発言はいつものことと取ったのかお世辞と取ったのか、完全に無視されている。

 意外そうに目を丸くしたエマに、ブレアは当然のように頷く。


「エマは可愛いよ?目がぱっちりしてて綺麗なところとか、いつもにこにこしてるとことか。髪型も色々してるけど、全部似合ってて可愛いよ。」


「そ……そうかな?えと……嬉しいわ。すごく照れるけど。」


 じっとエマの顔を見ながら、ブレアは当然のようにさらりと言う。

 抱擁を解いたエマは、両頬を押さえて目を逸らした。

 気恥ずかしさが勝っているようだが、すごく嬉しそうだ。


「先輩……、俺の前で他の女子口説くのは申し訳ないなとか思いませんか!?」


「口説いてないよ。」


「完全に口説いてます!」


 むっと眉を寄せたルークは、悲しそうというより怒ったようにブレアを見る。

 ルークの様子を見て、ブレアは不思議そうに首を傾げた。

 巻かせてあげたというのに、何故不機嫌になるのだろう。

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